表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして姫君は恋を知る  作者: 未華
エピローグ~そして姫君は恋を知る~
166/180

ある日の昼下がり

イセン国王とエルン国の姫君対面から数か月後……。

 イセン国。

 数多の国々と戦を重ね、大陸随一の大国へとのし上がったその国は、他民族が入り混じる混沌とした国。


「おねーさん。それ五つよろしく」


 賑わう城下の一角にある市場。

 鋼色の髪と瞳をした男は、店頭に並ぶヤルルを指さした。

 それは、イセン国よりずっと離れた南のエルン国の特産品。

 数か月前までならば、高級食材店の奥深くに、目が飛び出るほどの金額で売られていた代物だ。


「あらま、おねーさんだなんて、口が上手いね。お兄さん」


 愛想のいい店主は皺だらけの顔を更にくしゃくしゃにしながら、満更でもない顔だ。


「これは土産用なんだけどさ、俺も腹ペコなんだよな。ついでに一個オマケしてくれたら、すっげー嬉しいんだけど。おねーさん」

「そういうことかね。やれやれ。あんた、ランス大陸民との混血だね。私は太陽の姫君のファンだからね。サービスしてあげるわ」

「やっりぃ。姫さんに感謝だわ」


 北のイセン国と南のエルン国。

 国交がないに等しかった二つが、盛んに交易を開始したのは数か月前。

 イセン国王の婚約者として、南の小国エルンの姫君がやってきたことがきっかけだった。

 ランス大陸の民である母を持つその姫は、金の髪に白い肌というランス大陸民特有の容姿をしていた。

 自国での呼び名、“太陽の姫君”という呼称は、瞬く間にイセン国でも浸透していった。


「太陽の姫君のおかげで、南からの輸入品でものも増えたし、うちらへの正式な出店許可も降りたし、本当に姫様様さね」

「はれ? おねーさんイセンの人じゃないんだ?」

「そうさね。うちの国はイセン国に攻め滅ぼされてんのさ。暫くは戸籍ももらえなくて、こき使われて。何とかそっからは逃げ通せたもんの、正式な身分証がなきゃ仕事も広げられんから。偽造パスでコソコソと商売をしとったんよ」


 そう言いながら、店主はリストバンドの巻かれた手首に触れる。

 奴隷には印がつけられる。

 そこにはきっと、何かしらの跡が残っているのだろう。


「けんど、太陽の姫君が来て下さったおかげで、移民への待遇も見直されて、こうして堂々と店を広げられるようになったって話さね。なんでも姫さんの側仕えは、耳長族の子とバーニ前宰相の孫娘だって言うじゃないか。この国も変わったもんだね」


 優遇されるのはイセン国民のみ。

 移民や他種族、一握りのランス大陸民の権利や人権はなしに等しかった。

 それに異を唱えれば、迫害の対象となる。

 耳長族が城で働くなどありえなかったし、バーニ前宰相はそういった現状をよしとせず、改革を推進しようとし、矢先に命を落とした人物だった。

 その孫娘が城にいるということは、風向きが変わった証だ。

 憶測が飛び交う中で、瞬く間に新たな法令は執行され現在に至る。


「民族解放令……だっけ? 俺もあれで助かってるわ。前はさ、髪赤くして、色眼鏡で目の色隠してたりしてたんだぜ?」


 あえて店主の詳しい過去には触れず、鋼色の髪の男は明るく言い放つ。


「あれま。それは勿体ない。あんたのその色。すごくいいよ」


 店主の言葉に、一瞬呆けた顔になり、次の瞬間に破顔する。


「……やばっ。俺、おねーさんに惚れたかも」

「残念。うちには皺くれた連れ合いがおるんよ。あと30年早く生まれていてくれればのう」

「マジかぁ。俺、フラれてばっかだ」


 あからさまに肩を落とした男の前に、ヤルルが詰め込まれた紙袋が差し出される。


「運命の相手は一人。だから、あんたもどんどん当たって砕けておいで」

「運命ねぇ」

「そうさね。ここの国の王様と太陽の姫君が出会ったようにさ」


 店主の言葉に思わず笑みがこぼれる。

 そう。自分はその光景を間近で見ている。

 運命としかいえない二人の出会いや絆を感じさせられる光景を。


「ほら、ヤルル二つおまけしといたよ。たくさんお食べ」

「おねーさん、いい女過ぎ。また来るよ」


 店先を後にし、さっそくヤルルを一つ取り出しかぶりつく。


「やっぱ、エルン国産は最高だわ。さーてっと、姫さんへのみやげも出来たことだし、そろそろ戻らねーと、サボってんのバレちまうわな」


 ひとり心地でそうつぶやくと、まじないの言葉を転がし、男はその場から掻き消えたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ