イセン国城にて(2)
………………
人払いをし、カイル様へのみメディシス宰相の異変を告げる。
「やはりあの男か」
「完全に動きを読まれていますね」
すでに“首謀者”が誰であるかは予想が付いていたこと。
だが、このタイミングはまずい。
報告によれば、数時間前からレイモンド様の姿も城から消えたという。
“病に伏している”はずの王が居らず、代理であるレイモンド様も失踪。
王は魔力を持ち、その力を制御できない身である。
などと暴露されれば、旧臣たちはメディシス宰相の反乱に加担するだろう。
カイル様にはまだ味方が少なすぎる。
「今ならまだ城に戻り、メディシス宰相を抑え込めます」
魔力が安定している今なら、メディシス宰相の目論見を崩すことも可能だろう。
リルディアーナ姫は他の者に任せ、城に向かうことが得策。
ここで、王位を失脚させるわけにはいかない。
「ダメだ。レイの元にはテオがいる。俺でなければ、リルディを救い出せない」
「では、王位は諦めると? ですが、それではリルディアーナ姫をランス大陸に奪われることになります」
ランス大陸に狙われている、リルディアーナ姫を守るためには王位が必要。
しかし王位をとれば、リルディアーナ姫は連れ去られてしまう可能性が高い。
レイモンド様の件にも、メディシス宰相が絡んでいるというのは明白。
二人の王位継承者を遠ざけ、反乱を起こし国を奪う。
それがいつから計画されていたものなのか、少なくともこれは衝動的ではなく計画的なものだ。
そう分かるからこそ、迂闊な行動は出来ない。
「俺が時間稼いどいてやるよ」
沈黙を破ったのはフレデリク・エルン。
「盗み聞きとはいい趣味ですね」
その気配にまったく気づかなかった。
警戒をしていなかったわけではないはずなのだが、どうにもこの男は色々な面で規格外すぎる。
「俺の得意技だからな。任せろ」
胸を張って得意満面なのがまた癪に障る。
「一応言っておきますが褒めていません。それで、時間を稼ぐとは?」
「あぁ。ようは、そいつがリルディアーナを連れて来るまで時間稼げばいいんだろ? イセン国に乗り込んで、難癖付けて足止めしといてやっからさ」
「ですが、他国の王であるあなたを、この国の諍いごとに巻き込むわけには……」
「そんなことを言っている場合か。さっきも言ったが、俺はエルン王としてではなく、リルディアーナの父親としてここにいんだよ。親としては、娘の旦那になる奴が無職じゃ、困るわけだ。素直に頼れよ」
「……ありがとうございます」
「まかせとけ。なぁ、ユーゴ」
そうくるだろうと思っていたが、いざ自分にふられると閉口する。
「お前さ、そこまではっきりと嫌そうな顔すんなよ。自分の国のことだろ?」
「嫌なのは、あなたと行動を共にしなければならないということです。まったく、エルン国とは二度とかかわりを持ちたくなかったというのに」
「うわっ。冷たいな。アンヌは時々お前に会いたがってるつーのに」
「……そういう無神経な男が王の国だから関わりたくなかったんです」
それでも今はこの男の力が必要だ。
あまりにも綱渡りの穴だらけの策。
それが成功するかは、このフレデリク・エルンにかかっているのだから。