イセン国城にて(1)
ユーゴ視点。
リルディ奪還にカイル達が向かった頃ユーゴたちは……。
「それで? イセン国王はいずこに?」
イセン国城の一室。
不遜な態度で男……フレデリク・エルンは目の前に直立している男に、一瞥を向ける。
エルン国のような小国の王が、この大陸随一の大国であるイセンに乗り込み、こうも高慢な物言いを出来るのは、演技なのか素なのか……いや、明らかに素なのだろう。
この男に“物怖じする”などという可愛げがあるはずもない。
「大変遺憾ですが、我が王は病床に伏しております。恐れながら、エルン国王も聞き及んでいるものだとばかり……」
対峙した男は丁寧な物言いをしながらも言葉に棘を含ませる。
一国の王がそんなことも知らないのかと。
心中は穏やかではないだろう。
柔和な表情を浮かべながら、時折苛立ちが見え隠れしている。
「もちろん知っている。だが、俺はイセン国王からの直々の呼び出しを受けたんだが」
「……恐れながら、何かの間違えでは?」
「俺が嘘をついていると? メディシス宰相殿」
目の前の男を威嚇するかのように眼光鋭く言葉を放つ。
ドリノ・メディシス。
名門メディシス家の長であり、前王ゼルハート・イセンと共に幾多の戦場を駆けぬけた戦友。
前王の信頼は厚く、カイル様が王位を継いだ後も、宰相の一人として、国に絶大な影響力を持っている。
(まったく、厄介な相手だ)
人望者としても名高く、平民の子であるエルンストを養子として引き取り、軍神と言わしめるほどに育て上げた。
実力があり人望がある。
“ドリノ・メディシス宰相に反乱の兆しあり”
城に残してきた腹心から火急の知らせがもたらされたのは、カイル様がリルディアーナ姫奪還を決意した直後だった。
話は数時間前に遡る。