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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
再会編~そして想いは一つになる~
153/180

たどり着いたその場所は

リルディ視点。

砂馬を走らせたどり着いたのは意外な場所で……。


「すまなかったな。お前の騎士を置いて来てしまって」


 砂馬を走らせながら、カイルは気遣わしげに言葉を放つ。


「ううん。いいの。きっと話したいこともあるだろうし。アランのことはクラウスに任せた方がいい気がするから」


 何だかんだ言いながら、やっぱり二人は親友でお互いをきっと分かっている。

 クラウスなら、アランがこれからどうするべきなのか、きっと助言も出来るはずだ。


「クラウスを信頼しているのだな」

「うん。だって私の騎士だもの」


 ずっと昔から常に側にいた存在。

 私の一番の理解者で絶対的な味方。


「……少し妬けるな」

「ん? 何か言った?」

「別に。何でもない」

「?」


 風の音に紛れて聞き逃したカイルの言葉。

 何と言ったのかは教えてくれなくて、変わりに抱きしめる腕がほんの少し強くなる。


「それで、今はどこに向かっているの?」


 先導して前を走っているのはエルン。

 きっと行先を知らないのは私だけだ。


「……」

「カイル?」


 私の問いに答えは返ってこない。

 代わりに、私を抱きしめるカイルの腕がますます強くなる。


「初めて会った時、お前は俺のことをどう思った?」

「え?」

「いつから俺のことを好きだった」

「なっ。いきなりどうしたの?」

「聞きたいんだ。聞かせてくれ」

「……最初はちょっと嫌な奴って思ったかな」


 唐突に攻撃されて、顔を合わせた途端に剣を突き付けられて、そのうえ人の親切を無下にするし。

 少し……ううん。

 けっこムカついた。

 今思い出しても、ちょっとイラッとするし。


「そうなのか……」


 けれど予想以上にしょ気た声が返ってきて、思わず慌ててしまう。


「あ、最初だけだよ? そのあとは、ほら! 一緒にイセン国まで言ってくれたし、メイドになった時も心配してくれたりして。……多分、メイドになった頃には、もう意識していたんだと思う」


 いつからかなんて、正直断言できないけれど、少しずつ想いは積み重なって、それは確実に大きくなっていった。


「俺も……いや。今は言うべきではないな」

「カイル、何だか変だよ? どうかしたの?」


 やっぱり私の問いには無言で長い沈黙が続く。


 砂馬は砂漠地帯を抜けてイセン国内へと入る。

 先導するエルンの後に続き、工業地帯を駆け抜け、急な坂を休むことなく走り続ける。


「え? あれって……」


 視界に入ってきた大きな見慣れた建物。

 それはカイルの屋敷から何度となく見つめいていた場所。


「イセン国城だ」


 呟くように放たれた答えに、胸の鼓動が大きく音を立てる。

 婚約者であるイセン国王がいる、私が当初目指していた場所。

 カイルに出会って恋をして、心の片隅にありながら、ずっと考えないようにしていた場所だ。


「どうして?」


 一直線に向かっているのはその場所で、だからますます意味が分からなくて混乱する。

 カイルには、イセン国王が私の婚約者なんだってことを話してある。

 婚約解消をお願いするつもりだけど、まだ父様も説得出来ていないし、そもそもイセン国王は、私がイセン国にいること自体知らないはずだ。

 どうして、今此処に来たのだろう?


「開門!!」


 先導していたエルンが高らかに声を発し、大きく頑丈な門が開く。

 そういえば、エルンはこの国の軍人で、将軍と呼ばれるような偉い人だったんだっだと、ぼんやりと思い出す。

 そびえたつイセン国城は、遠くから眺めていたよりずっと大きくて絢爛で圧倒されてしまう。


「行くぞ」


 呆気なく登城は許されて、何の躊躇いもなく城内へと進んでいく。

 中に入ってもやっぱり大きくて、これじゃあエルン国一つ入ってしまうんじゃないかしら? なんてことを混乱する頭で思う。

 どこをどう走って、ここがどこなのか見当もつかないけれど、小さな袋小路にたどり着いて、やっと砂馬を諌めて歩みを止める。


「カイル様。あとのことはこちらで。行ってください」


 先に待機していたエルンが、早口でそう言い放ち、カイルは大きく頷き砂馬から降りる。


「カイル。これってどういうことなの?」


 蚊帳の外なのは私だけだ。

 何がどうなっているのかも分からなくて、すっかり置いてきぼりだ。

 このまま取り残されても途方に暮れてしまう。

 縋るように、今にもどこかに行ってしまいそうなカイルの服の袖を掴む。


「……すまない。説明している時間がないんだ。行かなければならない」

「後は自分がご案内致しますから、ご安心ください」


 カイルに続き、エルンが優しく諭すように言葉を続ける。


「だけど……」


 せっかく再会できたのに、どうしてまた離れ離れにならなくちゃダメなんだろう。

 一緒について行きたい。

 そう喉まで出かかって、けれどそれは我がまな気がして、寸でのところで飲み込む。


「すぐ、戻ってくるよね?」

「あぁ。きっと。……俺はお前を誰よりも大切に思っている」

「!?」


 今の流れで、いきなり何を言いだすんだろう。

 カイルは時々、驚くくらい唐突に心臓に悪い言葉を口にする。


「先に謝っておく。こんなかたちになってしまってすまない。だが、俺の想いに偽りはないんだ。俺は全身全霊でリルディを愛しているから」

「愛っ!? なっ、カイル、言ってる意味が全然分から……!?」


 言葉は途中で止まる。

 正確には止められた。

 袖を掴んでいた手を引き寄せられ、そのまま、私の唇をカイルは自分の唇を押し当てて塞ぐ。

 唐突すぎて瞳を閉じる暇もなく、至近距離でカイルの瞳とかち合う。

 その瞳に魅入られて、思考回路が完全に止まってしまう。


「行ってくる」


 唇を離したカイルは何事もなかったように、落ち着き払った声でそう言うと、未だ頭が回らず放心している私を残して、その場を後にしたのだった。


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