闇の中(2)
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(あれは……)
どれほど歩みを進めたのか、やがて暗闇にただ一つの光を見出す。
それは長い長い螺旋階段の先、まるで闇夜に浮かぶ月のように光り輝いている。
そこにリルディがいるのだと、何の根拠もないというのに分かる。
引き寄せれるかのように、螺旋階段を上っていく。
「!」
幾重にも重なる螺旋を進み、やがて光の源へとたどり着く。
黒い石造りの椅子に身を預け、リルディはそこにいた。
長い金の髪が光を放ち、透けるように白い肌に純白のドレスを身に纏い、この暗闇に染まることなく容を止めている。
その神々しく美しい姿に一瞬息を呑む。
「リルディ?」
名を呼ぶがリルディに反応はない。
青い瞳は確かにこちらを向いているはずなのに、その瞳に俺が映ってはいない。
いや、それどころか、その瞳は何も映してはいないのだ。
まるで心ない人形のように、その場に佇んでいるだけ。
「まさか……」
跪き触れた頬には確かな温もりがあるというのに、何の反応も示されない。
これもこの世界が創り出した幻覚であればいいと思う。
だが、まぎれもなくリルディなのだと、精神だけだからこそ分かってしまう。
「どうすればいいっ」
容はあるが、心はすでに闇に囚われかけている。
リルディは魔力を拒絶し、それを自分へと蓄積していくのだと、あの男は言っていた。
そして、この空間は魔力を吸収する。
清らかなリルディの中にある魔力はこの空間に蝕まれ、なおかつリルディがこの空間の魔力を吸収しているとなれば、それは毒を摂取しているのと同じこと。
リルディの力によって、この空間は半永久的に濁った魔力を生み出していくのだろう。
リルディが完全に闇に呑み込まれ心が崩壊するまで。
「俺はお前を失うわけにはいかない。やっと見つけた俺の生きる意味なのだからな」
リルディの体を抱き立ち上がる。
「俺が暴走したら止めると言ったのはお前だからな。期待している」
一か八かの賭け。
俺の中にある魔力は人のそれより数倍多い。
であれば、リルディとこの空間。
二つが吸収する魔力を俺に向けさせればいい。
少なくとも、俺の魔力はリルディの毒にはならないはずだ。
「常に制御している魔力を解放したらどうなるか、俺にも責任は取れぬからな」
自分でも無謀な賭けなのだと分かっている。
それでも事態は一刻を争う。
なにより、リルディが穢されていくのを黙ってみていることなど出来ない。
抱き上げたリルディを奪い返すがごとく、空間から切り取られた黒い靄が俺の周りを取り囲む。
「こいつは俺のものだ! 触れるなっ」
想いを言葉にし、それに同調するかのように、俺の中から発せられた魔力がそれらを蹴散らす。
「リルディ。一緒に帰ろう」
その言葉が届くことを祈りながら、制御していた魔力のタカを外した。