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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
再会編~そして想いは一つになる~
138/180

狂気に囚われて(1)

リルディアーナ視点。

落ちてたどり着いた先で出会ったのは……。


「痛ぁ! うぅ。鼻打った」


 突然足元の地面が無くなって、バランスを崩したまま俯け様に真っ逆さま。

おかげで顔面から落ちて、思い切り鼻を打ち付けた。


「まさか地面からも落ちる羽目になるなんて」


 涙目で鼻をさすりながら、何とか起き上がる。

 救いは落ちた場所が草の上だったということだ。


「ここどこ?」


 見上げれば、抜けるように青い空と燦々と輝く太陽。

 先ほどまでの砂嵐が嘘のように、穏やかな天気だ。

 多分どこかのオアシスなのだろうと思う。

 つまり、明らかに先ほどとは違う場所。


「やぁ。大丈夫? お嬢さん」


 どうしたらいいのか分からず途方に暮れていると、唐突に声が降ってくる。

 驚いて顔を上げると、いつの間にか目の前に男の人が立っていた。

 細身で長身。

 長い綺麗なダークブラウンの髪をゆったりと縛り、浅黄色のクルタ姿だ。

 優しげな笑みを浮かべ、座り込んだままの私に手を差し伸べる。


「ありがとう……!」


 その手を取り立ち上がるけれど、華奢な体つきに似合わず、驚くくらいに強い力で引っ張られる。


「ふふ。捕まえた」


 体制を崩して体を預けた私に、耳元に吐息がかかるほどに近づきそう囁きかける。


「え?」


 その言葉の意味を理解する前に、今度は乱暴に突き放され、そのまま地面にしりもちをつく。

 それと同時に、私を取り囲むように杭が地面から突き出す。

 真上で窄んだその形は、さながら大きな鳥かごのようだ。


「なにこれ!?」


 慌てて立ち上がり、突き出した杭を引いたり押したりしてみるけれど、まったくビクともしない。


「本当に警戒心の欠片もないんだね。君は」

「どうしてこんなことするの? レイに頼まれたの?」


 多分、私を此処に落としたのはテオさんなんだと思う。

 だから咄嗟に思い浮かんだのは、レイの命令じゃないかってことだ。


「違うよ。これは俺がそうしたいからしていることで俺の意志だ」

「あなたは誰なの?」


 その問いを聞き、先ほどまでの柔和な表情から一変、馬鹿にしたような皮肉めいた笑みを浮かべる。


「分からない? リルディアーナ。まぁ、そういう愚鈍なところが殺人人形キラードールやアランに愛されるんだろうね」


 この人は私を知っている。

 だけど、いくら思い返しても、私はこの人と会った記憶がない。

 唐突に出た訳の分からない単語とアランの名前。

 結びつける何かを探すけれど、頭の中は混乱するばかりだ。


「人のお気に入りを奪っておいてずるいよな。ずるをしたら罰が必要だろう?」

「……」


 優しい声。

 優しい笑み。

 だけど、私を射抜くその瞳は冷たく暗い。

 文句を言いたいはずなのに、声が喉に張り付いて音をなさない。


「君は俺が飼殺してあげるよ。殺人人形キラードールが愛してやまないその澄んだ瞳が色を失くすまでね」

「いや……」


 恫喝されているわけでも、体を痛めつけられたわけでもない。

 だけど、この人がどうしようもなく怖い。

 底知れない闇が自分を飲み込むような錯覚に陥る。


「可哀相に。震えているね。怖がらなくてもいいんだ。殺したりはしないから。ただ君は、自我を手放して俺に従えばいいだけだよ」


 杭の間から手を差し入れ、私の髪をひと房すくいとり弄ぶ。

 逃げ出したいのに、金縛りにあったみたいに一歩も動けない。


「魔術はダメだから……そうだね。心を壊すか薬を使うか。それとも快楽で堕落させる? ふふ。綺麗な君がどう壊れるか楽しみだな」


 甘く囁く言葉。

 きっとそれはひどく残酷な言葉なんだろうけれど、頭の奥が痺れてうまく考えられない。

 まるでこの人自体が毒みたいだ。


「ざけんなっ! 変態じじぃ。セクハラも大概にしろっ」


 静寂を破る怒気を含んだ声。

 その声に、遠のきかけていた意識が引き戻される。


「ア……ラン?」


 そこにいたのは、鋼色の髪と瞳をしたアランだった。

 赤毛と色眼鏡に慣れているから、その姿はやっぱり見慣れないけれど、その姿に泣きたいくらい安心した。


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