守るべきもののために(2)
「カイル?」
「あ、あぁ。すまない。その、色々と話たいことがあるんだが……」
言葉を発しかけたその時、砂を蹴る複数の蹄の音が響く。
「チッ」
気が付くのが遅すぎた。
あっという間に現れた一団に囲まれ、逃げ道を逸脱する。
不安げに俺を仰ぎ見るリルディを引き寄せ、その腕に力を込める。
「俺から離れるな」
取り囲む輩は、出で立ちや雰囲気から、それなりに場馴れした傭兵なのだと分かる。
明らかに狙いは俺達。
いや、リルディか。
「見つけたよ。リルディアーナ」
囲む傭兵の間から一人の男が姿を現す。
悠然とした姿に酷薄な笑み。
冷たいその相貌は思い出したくもない男を思い出す。
「レイ!」
リルディが、叫ぶようにその名を呼ぶ。
「驚いた。君はいつも予想外のことばかりするんだから。本当に目が離せないな」
「貴様、どういうつもりだ?」
リルディへのみ注がれていた視線が、ゆっくりと俺へも向けられる。
「僕はリルディアーナを探しに来たんだ。あんたには関係ない。そこを退いてくれないか?」
「そう言われて、素直に退くとでも?」
「……だよな」
暫しの沈黙の後、レイは小さく息を吐き後方へと視線を向ける。
向けられた先から静かに現れたのはテオだった。
きっといるだろうとは予想していた。
それでも、こうして対峙することになると、ひどく動揺してしまう。
遠い昔、誰よりも憧れていたその存在。
「……」
テオは無言のままに鞘から大剣を引き抜き、地面へ剣先を突き刺す。
「え?」
「!?」
微かな魔力の波動が通りぬけるのを感じるのと同時に、触れていたリルディの感触が消え失せる。
「リルディ!」
視線を戻すと、リルディのいた場所に不自然な空洞だけが残っていた。
そこに落ちたのだろうことを確認する前に、空洞は一瞬で掻き消える。
「何をした!?」
「あの女は、魔力を弾く能力がある。面倒なので、少し先の空間に転送しておいた」
「そういうことだから、僕も先に行かせてもらおう」
再度、テオが作り出した空間へレイは歩みを進める。
「待てっ」
「追いかけたいのなら、テオとそいつらを倒してからにするんだな。カイル兄上」
そう言い捨てて、レイはその場から姿を消し去る。
「くそっ」
動揺を抑え、瞬時に頭を切り替える。
「……」
魔術式を組み立て、作り上げた魔力の塊を取り囲む輩へと投げつける。
「うわっ」
「な、なんだ!?」
動揺する傭兵たちとは対照的にテオは微塵の動揺もしめさず、大剣を振りおろし同じように魔術を放ち、俺の魔力を相殺させた。
「あの男も魔術師か!?」
「異能者……」
途端に侮蔑とも嫌悪ともとれる目が向けられる。
「いいのか? そんな大っぴらに魔術を使って」
「……もう隠すことはやめた。この力もまた俺の一部なんだ」
そう気づかせてくれたのはリルディだった。
天翼でも人でもない俺を、認め受け入れてくれた。
だからたとえ多くの者に拒絶されたとしても耐えられる。
これから先がどんな道でも進んでいける。