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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
再会編~そして想いは一つになる~
132/180

触れ合う心と溢れる想い(1)

リルディアーナ視点。


レイにかどわかされたリルディアーナが取った行動は……。


 ゆらゆら、ゆらゆらと、体が揺れている。

 温かくて心地よいはずなのに、どうしてだろう?

 目を覚まさなくちゃと思う。

 ここにいてはダメだとそう思う。

 だけど、どうしてダメなのかな? 


『ゆっくりお休み。何も心配いらないから』


 ほら。だって優しい声がそう言っているのに。

 このまま、目を閉じたまま、深い眠りに落ちたらすごく幸せだ。

 このまま眠っていれば、きっときっと幸せのままでいられる。


『本当に?』


 ゆらゆら揺れる世界。

 唐突に聞こえてきた声に、落ちかけた意識を救い取られる。


『いつまでそうやって眠っているの? 忘れたフリをしていつまで逃げるの?』


 逃げる? 

 言っている意味が分からない。

 私が何から逃げているって言うんだろう。


『思い出せない? ううん。本当はもう思い出せるのに、知らないふりをしているだけ。弱虫だ』


 知らない。

 分からない。

 どうしてそんなことをいうの?


 重い瞼を何とか持ち上げて声の主に視線を向ける。


「!?」


 そこにいたのは、金の髪をした小さな女の子。

 青い瞳で真っ直ぐと私を見ている。

 怒ったように、悲しむように。


「私?」


 そこにいるのは、今よりずっと昔の私。


 ドクンッと心臓が跳ねる。


『このままでいいの? 忘れたふりして、守られているだけでいいの?』


 意味が分からない。

 けど、胸の奥が疼いて苦しい。


「ねぇ、どういうことなの? 教えて……!」


 何かに急き立てられるように、小さな私に手を伸ばすけれど、触れる直前に、その姿は今の私になる。

 まるで鏡をみているかのように、私に似ている私。


『……』


 伸ばし止めた手に触れ、その唇が動く。


『もうすぐファーレンの門が開いてしまうのよ』


 その言葉を残して、弾けるように“私”は消えて、独りその場に取り残される。


「ファーレンの門が開く?」


 それが何だというんだろう? 

 分からない。

 分からないはずなのに、胸の奥がチリチリと痛い。

 痛みが意識を覚醒させる。

 夢の世界が終わる音がする。


「ん……」


 体が重い。

 まるで鉛の塊になったみたいに、瞬きすら大変でうっかりすると、そのまま瞼を閉じてしまいそうになる。


(あれ? なんで私、レイに抱きしめられてるんだろう?)


 レイに抱きかかえられて砂馬に乗っている。

 その現状が、モヤがかった私の思考をクリアにしていく。


(そうだ。レイは私を連れてイセン国を出るつもりなんだ)


 景色に視線を走らせるけど、砂が風で舞い散り視界がはっきりとしない。

 一体どのくらい意識がなかったのか、どのくらいの時間が過ぎているのか。

 もしかしたら、もう数日過ぎてしまっているかもしれない。

 そう考えるとゾッとする。

 こうしている間にも、カイルとの距離は確実に遠のいているんだ。


「カイル」


 呟きに、前を見据えていたレイの視線が私へと落ちる。


「なっ」


 一瞬の虚を突き、私は今の渾身の力を込めてレイの体を押しのける。

 支えをなくして、体は一度空を舞い、砂の上に叩きつけられる。


「いったー……」


 もう少しうまく落ちる気でいたのに、思う様に体は動かず、体全体を思い切り打ちつけた。

 痛みで、ぼんやりした意識がはっきりとしたってことだけが救いだ。


(うん。大丈夫。痛いけど動ける)


 相変わらず体は痺れているけれど、今はそんなことに構っていられない。

 レイが戻って来る前に、少しでも遠くへ逃げなきゃ。

 砂嵐で視界が悪いから、うまくいけば逃げ切れる。

 とりあえず、ここから少しでも離れよう。


「私はカイルに言いたいことが……あるんだからっ」


 砂に足を取られて、歩く……というよりは、転んで起き上がっての繰り返し。

 もう髪も服も砂だらけで、口を開いた途端に、砂が入り込んでむせ返る。


「げほげほっ……絶対、帰るっ」


 這ってでもイセン国に戻ってやるんだから。


「……」


 歩き出して数歩と経たないうちに誰かの声がした。

 レイに見つかったのかと心臓が跳ね上がる。


「……ィ」


 声が近づく。


(ダメ。私はカイルのところに戻るんだから)


 意地悪でぶっきら棒で素直じゃなくて。

 だけど、本当は優しくて温かい人。

 側にいるとドキドキする。

 だけど心の底から満ち足りる。

 私が見つけた、私が恋する相手。


「リルディー!!」

「!?」


 息が、止まるかと思った。

 近くから聞こえるその声は、ずっとずっと聴きたかった声。

 何度も何度も会いたいと願ったその人のものだった。


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