告げられた真実(1)
アルテュール視点。
告げられた事態は、あまりにもありえないことで……。
その場は水を打ったように静まり返る。
ユーゴという名の男から説明された事柄は、予想以上に突拍子なく、呆れるくらいにありえない話だった。
「……つまり、そこにいる男は静養中のイセン国王で、リディを保護したというこの屋敷の主だと。そして、リディを連れ去ったのはイセン国王の弟。そういうことで合っているのか?」
混乱しきった頭で、何とか自分を納得させようと、ありえない現状を言葉にする。
「あぁ。そういうことだ」
「貴様っ」
すました顔で肯定する目の前の男……カイルワーン・イセンの胸ぐらをつかみ、そのまま殴り倒す。
「っ!」
何の抵抗もなく俺の拳を受け、カイルワーン・イセンは地面に倒れ込む。
「カイル様!」
「アルテュール殿下っ」
同時に俺と奴の名が呼ばれ、なおも殴ろうとする俺にクラウスが、地面に倒れ込んだ奴にエルンストが駆け寄る。
「いけませんっ。どうか静まってください!」
もう一度拳を振り上げる俺を、クラウスが後ろから抑え込む。
「ふざけるなっ。なぜそこまで分かっていて、お前は何もしない! サッサとそいつを捕まえて、リディを助け出せばいいだけだろうっ」
リディの相手であるイセン王が、こんな腑抜けた男などとは思いもしなかった。
顔を合わせたその時から、感情らしい感情を見せず、俺に殴られた今ですら、無表情を保っている。
まるで人形でも殴ったかのような手ごたえの無さに、苛立ちは更に募る。
「落ち着け。アルテュール。ここで揉めても意味がねーだろ。カイルも何当たり前みたいに殴られてんだ?」
凍り付く空気を溶かすように、フレデリク王は呆れを含んだ声を向け、俺とイセン王を交互に見る。
「ですがっ!」
「怒りは甘んじてうける。だが、後はリルディを取り戻してからにしてほしい」
何を馬鹿なと怒気を込め睨み、そしてぶつかったその瞳に息を呑む。
(こいつ……)
その瞳には揺るぎ無い強さがある。
抑えられた表情だからこそ、その瞳の強さに蹴落されそうになる。
「俺は貴様を認めないっ。だが、今はリディを助けるのが先だ」
俺の体を拘束するクラウスを払いのけ、吐き捨てるように言い放つ。
「あぁ。感謝する」
「ふんっ」
自分を殴った相手に、なぜすんなりと礼など口に出来るのか。
こいつにはプライドがないのか。
気に食わない。
俺は、こいつを一生好きにはなれないだろう。
そう確信した時、イザベラが一歩前へ進み出て口を開く。
「恐れながら私も納得がいきません。なぜ、その弟君を糾弾なさらないのですか?」
「……レイは今、俺の職務を代行し、城に詰めている。そして、今の俺は城には近づけない」
イザベラの問いに、淡々とイセン王は答える。
「なぜ……とお聞きしてもよろしいですか?」
「今、我が王が動けば、これを仕組んだ人物の思うつぼだからです」
イザベラに続くクラウスの問いに、ユーゴという執事の男が静かに言い放つ。
「意味が分からない。分かるように話せ。そもそも、王であるお前はなぜ城にいない?」
「我が国のことですので。詳細を話すことは……」
「俺が魔力を持っているからだ」
言いよどむエルンストを遮り、本人から放たれたのは衝撃の一言だった。