表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして姫君は恋を知る  作者: 未華
すれ違い編~そして想いは交錯する~
128/180

望まぬ旅立ち(2)


 目の前には、いつも通り豪華な食事。

 けれど、それらを楽しむ余裕なんてない。


(少しは食べておかなくちゃ)


 カイルの屋敷へ来たばかりの頃、食事が喉をとおらず食べずにいて、メイドになり立ての頃は、すぐにへばってしまって大変だった記憶がある。

 いざという時のために、食べられるものは無理をしても食べるべきだ……ということを学習した。

 今日も渋々ながら、のど越しがよさそうな、目の前にあるスープに口をつける。

 そんな私の姿を楽しそうな様子で見ていたレイの口から、耳を疑う言葉が紡がれる。


「今、なんて言ったの?」

「今日、この国を出ると言ったんだよ」


 聞き返して、やっぱり返答は同じもので唖然とする。


「だって……」


 レイの後ろに控えるテオさんに視線を向ける。


『三日後には、レイはお前を連れてこの国を出るつもりだ』


 昨日、テオさんはそう言っていたはずなのに。


「どうやら、たまたま運よく、君についてきたあの女が逃げ出したみたいなんだよね」

「!?」


 ネリーが逃げ出したことをレイが気が付いてしまった。

 そのことに、心臓が跳ね上がる。


「テオ。お前、時々様子を見ていたみたいだけど、気づかなかったのかな?」

「あぁ。あいつの監視については、私はお前から明確な命令を受けていなかったからな。たまたま昨日は行っていなかったので、気づかなかったな」


 一欠けらの動揺もなくそう答える。


「そうか。ま、どうでもいいことだけど。助けを呼びに行ったとしても、屋敷からここまで、一日で往復できる距離じゃない。残念だけど遅すぎたね」

「私はあなたとは行かないわ」


 何度目か分からない拒絶の言葉。

 それを言うたびに、ネリーのことを持ち出され脅されたけれど、ここにはもうネリーはいない。


「ダメだよ。我がままを言わないで。あまり手荒なことはしたくないんだ」


 ていうことを口にしている時点で、手荒なことをする気満々じゃないのよ。


「私はこれ以上、レイの言いなりにはならないわ」


 強い決意と共に言い放ち、席を立ち踵を返す。


「食事の途中で行儀が悪いな」

「……?」


 無視を決め込み歩き出そうとした時、クラリと眩暈がした。


「え?」


 踏み出した足に力が入らず、それどころか体中が重く力が入らない。


「おっと。大丈夫?」


 一瞬目の前が暗くなり、次に気が付くと、レイの腕の中にいた。


「なに……こ……れ?」


 うまく舌が動かせず呂律が回らない。

 レイを振り払うことも出来ない。

 まるで、自分の体じゃないみたいに自由にならない。


「食事に即効性のしびれ薬を混ぜておいたんだ。天真爛漫な君は大好きだけど、昨日みたいに窓から飛び出していかれたら困るから」

「!?」


 私の体を軽々と抱き上げると、優しくささやきかける。


「テオ。準備をしろ。このまますぐに出る」

「……承知した」


 取り交わされる会話を、ただ聞いていることしか出来ない。


「い……や。カイ……ル……」


 このままじゃ、本当に連れて行かれてしまう。

 そう実感した時、頭に浮かんだのはカイルのこと。

 このまま、カイルと離れ離れになるのは嫌だ。


「……そうだね。カイル兄上の能力ちからを使えば、追いつくかもしれないな」

「!」


 それは多分、カイルの中にある魔力を揶揄しての言葉。


「だけど間に合わないだろうね。それに、それどころじゃなくなるだろうし」

「え……」

「火種を落としてきたんだ。今頃、大炎上しているころだと思う」


 そう言い、独り心地の笑みを浮かべる。


「……」


 何をしたの? そう聞きたかったのに、体中がしびれていて、言葉すらうまく紡げない。


「君は何も心配しないで。僕の腕の中で眠っていればいいんだ」


 やがて思考すら痺れたかのように意識が混濁していく。


「カイル……」


 会いたいその人の名を口にして、私の意識はそのまま暗闇に落ちた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ