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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
すれ違い編~そして想いは交錯する~
127/180

望まぬ旅立ち(1)

リルディアーナ視点。

夢に見たのは身に覚えのない過去の情景で……。


 リンゲン国城の奥深くの森の中。

 私はそこで泣いていた。


『近づくなっ。化け物!』


 歳近いリンゲン国のアルテュール王子。

 会うのを楽しみにしていた。

 友達になれると思っていたのに、返ってきたのは拒絶の言葉。

 時々、大人たちから奇異の眼差しを向けられることは分かっていた。

 その言葉で、その眼差しの明確な意味を知る。

 白すぎる肌の色。

 明るい金の髪。

 それはみんなと違いすぎて不気味なのだと。


「化け物なんかじゃないもん……」


 色が違うだけなのに。

 それだけで、どうして“化け物”なんていうんだろう?

 その場では泣かなかったけれど、やっぱり悲しくて涙が止まらない。

 父様は“早すぎる”と渋い顔をしたけれど、舞踏会があるからと、今日の為にとあつらえた可愛い薄紅色のドレス。

 今思えば、父様がいい顔をしなかった理由は、この容姿の所為なんじゃないかと思えてしまう。


「ひっく……ひっく……」

「!」


 またあふれ出してきた涙を拭おうとした時、微かに聞こえてきた、私じゃない泣き声。

 誰かが泣いている。

 咄嗟に声がする方へと駆け出す。

 そうして見つけたのは、私より少しだけお兄さんだと思う男の子。


「どうして泣いているの?」


 かけた言葉は震えていたかもしれない。

 拒絶されたらと思うと怖くなるけれど、泣いているのを放ってはおけない。

 だって独りきりは寂しいから。

 すごく悲しいって知っているの。

 だから私は、その子を放っておけなかったんだ。



 

「……変な夢」


 呟いて、それが夢だったんだと再認識する。

 覚えのない過去の夢。

 アルから、“化け物”なんてひどい言葉を言われた記憶はない。

 初めて会ったのは、珍しく高熱を出して寝込んでいた時だ。

 初めてリンゲン国へ行くはずだったその日に、体調を崩して、それでアルがお見舞いに来てくれたのだ。

 最初からつっけんどんではあったけれど、むしろ初対面の相手から敬遠されがちだった私を、昔から庇ってくれていた。

 アルが一緒で救われたことなんて数えきれない。


(でも、まるで本当にあったことみたいに鮮明だったな)


 夢と言うにはあまりにもリアルな情景で。


「おはよう」

「!?」


 振り返り、その場にいたレイの姿が、夢の中の泣いていた男の子と重なった。


「昨日はごめん。君のベットを占領してしまって」

「あ、ううん。……もう、体調は大丈夫?」


 昔私と出会ったことがあるというレイ。

 それなら、あの男の子がレイなのかな?

 一瞬そんなことを考え、慌てて頭をふる。

 私はリンゲン国城の森で泣いた記憶なんてない。

 あれは夢なんだから。

 そう。レイの言葉が引き金となって、あんなおかしな夢を見たのだろう。

 そう結論付ける。


「君こそ大丈夫? よく寝ていたから、起こすのは気が引けて毛布だけかけたんだけど……やっぱりベットに引っ張り込めばよかったな」

「だ、大丈夫。よく眠れたから。ありがとう」


 昨夜はレイが眠るのを見届けてから、そのまま眠り込んでしまったみたいだ。

 毛布をかけてもらったことに気が付かないほど熟睡するなんて、自分の神経の図太さに笑うしかない。


「こちらこそ。おかげで久しぶりによく寝た。さて、今日の衣装を用意しておいたから、着替えをしておいで。朝食にしよう」


 毒気を抜かれるくらいに、レイは当たり前のことのように、そんな言葉を口にする。

 いつの間にか、“今日の衣装”とやらが、テーブルのうえにきちんと畳んで置かれている。


「レイ、私は……」

「大切な話があるんだ。外で待っているから」

「え? ちょっと……もうっ。何なの一体」


 レイはサッサと部屋を出て行き、取り残された私は悪態をつく。


「いいかげん、何とかしなくちゃだよね。よし!」


 話がしたいというのなら望むところだ。

 用意されているビラビラヒラヒラ衣装を掴みとり、戦闘モードへと突入した。


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