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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
すれ違い編~そして想いは交錯する~
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王の決意(3)


「そういうことだ。ファーレンの門を管理しているのは天翼だが、所有しているのはイセン国だ。唯一、ランス大陸と対等に話が出来る」


 不可侵の制約があるトリア大陸とランス大陸。

 その二つの大陸で不都合が起きた時、対話をすることが出来るのは、ファーレンの門を所有しているイセン国の王族のみ。

 イセン国王の妃となれば、リルディアーナにもその権利は適用される。

 つまりは、ランス大陸の者が簡単に手出し出来ぬ地位になる。

 例え、ランス大陸を統べる女王であっても例外ではない。


「ま、この話を持ちかけて来たのは、お前の父親からだけどな」

「は?」

「昔、イセン国が南に侵攻をかけたことがあったのは知っているだろ? あの時色々あったんだ。和平が成立して、その後、妙に気に入られちまってさ。王だとかそういうのを抜きにして、個人的に親交があったんだよな」

「前イセン国王と?」

「はは、ありえないつー顔してんな。ま、あいつは相当人として問題がある奴だったからな。どうしようもない野郎だったが、俺は嫌いじゃなかった」


 懐かしむように俺を……いや、俺を通してゼルハート・イセンを見ている。


「……」


 冷酷で残忍。

 無慈悲で傍若無人。

 家族はもちろん、自分が治めていた国ですら無関心に、ただ戦場を駆け、国を、人を、壊すことしかしなかった。

 俺が知っているあいつはそういう男だ。

 昔も今も、思い出したところで嫌悪しか感じない。


「あの男がただであなたに力を貸すと? 助けるために、イセン国王妃の座をリルディにと言ったのですか?」

「いいや」


 そうだろう。

 あの男がそんな慈悲深い輩とは到底思えない。


「リルディアーナには魔力を抑え込める能力がある。だから、王妃となり魔力を持つだろう次代の王の支えになれと。それが交換条件だ」

「!?」


 それではまるで俺のことを、国を、憂いでいたようじゃないか。

 胸に渦巻く何とも言えない感情。


「……ありえない」


 カラカラに乾いた喉から出た言葉は、自分のものではないかのように弱弱しい。


「真意は知りません。けれど、そういった話があったのは確かです」

「これはお前の父親ゼルハートと交わした約束だ。だから、ここでお前の返事を聞きたい。お前はランス大陸からリルディアーナを守り抜く覚悟はあるか? カイルワーン・イセン王」


 向けられた眼差しは、一切の誤魔化しを許さぬ鋭さがある。

 今まで見てきた軽口を叩く男とは違う、それは揺るぎ無い意志を秘めた瞳だ。


「問われるまでもない。俺は……カイルワーン・イセンは、リルディアーナ姫を我が妻に望みます。彼女をランス大陸には行かせない」


 淀みなく答えは紡がれる。

 迷いなど微塵もない。


(リルディの心が俺になくとも、守ることが出来るのなら構わない)


 今は焼けつくようなこの想いが、リルディに届かくなくとも構わない。

 もうこの想いを偽るのはやめよう。

 俺はリルディを愛している。

 ランス大陸になど渡さない。

 一生を賭し、リルディを慈しみ守り抜く。


「ちったぁ、見られる面構えになったじゃねーか。イセン王の力量拝見させてもらおうか」

「相変わらず緊張感のない。ことの重大さがあなたは分かっているのですかね」


 ニヤリと笑うエルン王に、ユーゴは心底呆れたように大きく息を付く。


「それで、リルディに害はなされないとは、どういう意味だ?」

「期限付きですが、信用に値する方との取り決めですから。どっかの誰かとは違って」

「……」


 最後の当てつけがましいセリフが誰に向けられたものか。

 名を問わなくても分かる気がした。

 向き合うべき時が来たのだろう。


「ユーゴ、力を貸してくれるか? 俺はリルディを奪還し、すべての決着をつける」

「御心のままに我が君」


 ユーゴが頭を垂れ、後ろに控えるラウラもそれに習う。


「エルン王。あとはお任せいただけますか?」

「はっ。バカ言うなよ。俺だけ高みの見物が出来るか」

「これからのことは、イセン国の内情もかかわることになります。エルン国王であるあなたを巻き込めない。リルディ……姫君は無事に救出すると約束しますから」

「悪いが聞けねーな。今はエルン国王としてじゃねぇ。リルディアーナの父親として手を貸すんだ。問題はねーだろうさ」

「しかし……」

「それにな。色んな奴、ここに呼んじまってるし。ここは共同戦線で行こうぜ。俺の娘に手を出して、ただで済むと思うなよ」


 清々しいほどの笑顔だというのに、その目には並々ならぬ怒気を含んでいる。


「この男は、身内に手出しするものには容赦がないですから。野心はないくせに所有欲は異常なほど強いんです」


 ため息交じりにユーゴは呟いた。


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