表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして姫君は恋を知る  作者: 未華
すれ違い編~そして想いは交錯する~
124/180

王の決意(1)

カイル視点。


リルディアーナが囚われていると知ったカイルは……。


 太陽の国と呼ばれるこの光に満ち溢れた世界に居ながら、俺の世界はずっと暗闇に包まれていた。

 まるで人形のように義務をこなし、乞われるままに責務は果たす。

 “生きること”を望んだあの人のために、“王”という役割をこなしているに過ぎなかった。


 彼女に出会うまでは。


 考えなしの無鉄砲で、あきれるくらいにお節介。

 やることなすこと無茶苦茶で、危なっかしくて目が離せない。

 そのくせ、彼女のすべては生命力に溢れ輝いていた。

 惹かれるのに、時間なんてかからなかった。

 いや、出会った瞬間にもう、心は囚われていたのかもしれない。

 彼女は、闇が広がるだけの俺の世界の一筋の光。


 俺はどうしようもなく、リルディに恋焦がれている。


 握り絞めた拳が熱い。

 眩暈がするほどの怒り……いや、殺意が胸を締めつけ、息をすることさえ苦しい。


“リルディをレイが連れ去った”


 事もなげに、ユーゴの口から放たれたその言葉が理性を蝕む。


「どこに行く気ですか?」


 踵を返した俺に、ユーゴがいつもと変わらぬ口調で問う。


「リルディを連れ戻す」

「自分自身すら制御出来ないその状態で、城へ乗り込むつもりですか?」

「……黙れ」


 リルディに鎮められたあの夜から、驚くほどに凪いでいた魔力が、急速に膨れ上がっている。

 それでも、こんなところでじっとなどしていられるはずがない。


「レイにリルディは渡さない」

「彼女を手放そうとしていたくせに、今更そのようなことをおっしゃるのですか?」

「煩いっ。黙れと言っている!」

「くっ」


 怒りが形取り、ユーゴへと放たれ、その身は呆気なく崩れ落ち、その場に膝を付く。


「ユーゴ様っ」


 耳長族の少女から悲鳴染みた声が放たれる。

 駆け寄ろうとした少女を、手だけで制止、なおも言葉を重ねる。


「守る覚悟もないくせに、他人にとられれば癇癪を起す。まるで聞き分けのない子供ですね」

「お前に何が分かるっ」

「分かります。あなたは、彼女を守る自信がなくて、逃げ出したのでしょう? 彼女の幸せを想って……などと、都合のいい言い訳をつけて」


 淡々と紡がれる言葉は深く俺の心を抉る。


「ふざける……!」


 今度は明確な意思を持って魔力を放とうとしたのだが、目標を遮るように耳長族の少女が、両手を広げ俺を真っ直ぐに見つめている。


「……」

「ユーゴ様を傷つけることは許さないのです。絶対にダメ……です」


 小刻みに震えながらも、紅いその瞳は強く睨むように俺を射抜いている。

 その目は、すべてをかけても守るのだという、強い意志が込められている。

 か細い彼女からは想像も出来ない気迫がある。


『カイルが暴走しそうになったら、何度でも私が止めるよ。誰かを傷つけさせたりしない』


 虚を突かれたその時、リルディの言葉が甦る。

 あの時、魔力を暴走させ禍々しい気を放つ俺を、リルディは危険を顧みず抱きしめてくれた。

 ありのままの俺を包み込むように。


(今ここにリルディはいない)


 だからこそ、魔力を暴走させるわけにはいかない。

 俺がこの力で誰かを傷つければ、リルディが悲しむことになる。

 握り締めた拳を静かに解き、詰めていた息を吐き出す。


「魔力を抑え込めたのですね?」


 立ち上がったユーゴが、俺の変化に気が付き、微かに表情を緩める。


「今は何とかな」

「それだけでも進歩です」


 満足げな表情。


(こいつワザとか?)


 先ほどの言葉の数々は、俺を挑発するためのもの。

 身をもって、どの程度魔力を制御できるか試したかったらしい。

 相変わらず食えない奴だ。

 その神経の図太さに、呆れを通り越して尊敬すらしてしまう。


「それでお前は、レイの居場所に心当たりがあるのか?」

「ありませんよ」


 にべもなく答え、自分を庇う少女に一瞥柔らかな視線を向け、後ろへと下がらせる。


「ありませんが、当てはなくもない」


 胡乱な俺の眼差しを受け流しそう言葉を続ける。


「どういうことだ?」

「いなくなったのは姫君だけではありません。彼女につけていた監視もまた姿を消しています」

「監視……か」


 確かに、いくら屋敷内とはいえ、預かりものであるリルディを一人にするはずもない。

 今まで都合よくユーゴが現れた理由が、今更ながらによく分かる。

 多分、リルディとのやり取りもほぼ筒抜けなのだろう。


「普段はラウラをつけていたのですが、不調のため臨時でつけた相手ですので、どうにも心もとなくはありますが」

「ラウラ?」


 それは、ユーゴの後ろにいる耳長族の少女の名だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ