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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
すれ違い編~そして想いは交錯する~
122/180

子守唄を歌って(1)

リルディアーナ視点。

ネリーを逃がすことが出来たものの、

リルディアーナは部屋に戻されて……。


「はぁ……」


 結局、またこの部屋に逆戻りだ。

 ネリーを逃がすことは出来たんだから、それだけでも収穫ではあるけれど。


「もう二度と脱走などするな」

「待って」


 部屋に着くなり、もう用はないとばかりに背を向けるテオさんを慌てて引き留める。


「あの、ありがとうございましたっ」

「……」


 意味が分からないというように、テオさんは口を引き結び眉根を寄せる。


「テオさんのおかげでネリーを逃がすことが出来て、本当に感謝しています」

「……嘘、だと言ったらどうする?」

「え?」

「あれはお前を納得させるためのただの演技で、あの女は今頃他の者に捕まっているのかもしれない」

「それはないです」

「は? なぜそう思う?」


 問われて考える。

 なんで即答できるほどに、私はテオさんを信じているんだろう?

 ほんのひと時しか関わりがないはずなのに、なぜか私はテオさんに警戒心が持てない。

 むしろ、好感すら持っている。


「あぁ! そっか……」


 しばらく思案し、ふとその理由が閃く。

 テオさんの雰囲気は、初めて出会った時のカイルに似ているのだ。

 容姿が似ているレイが側にいるから、そんなこと考えもつかなかったけれど、雰囲気でいえば、不思議なことにカイルとテオさんには近いものがある。


(警戒心の強い野生動物みたい)


 そう心の中で呟いて、自分の的確な表現に思わず笑ってしまう。

 側にいるのに、なかなか近づいてはくれない。

 仲よくなるにはとっても忍耐が必要だ。

 それでも、仲よくなりたいと思える相手。


「何が面白いんだ?」

「な、なんでもないです」


 何かを察して、氷点下の眼差しで私を見降ろすテオさんに、慌ててそう言い繕う。


「気楽なものだな。あの女が助けを呼んでくることを期待しているようだが、望みは薄い。普通の神経なら、これ以上厄介事に巻き込まれるのはごめんだろうからな」

「心配してくれてありがとうございます。でも絶対大丈夫ですから」

「誰がお前の心配をしていると言った。お前は馬鹿なのか?」


 心底呆れた顔をされたけど、テオさんが私を気遣っているように聞こえたのだ。


「……馬鹿は早死にする」

「?」

「俺はそういう奴を知っている。馬鹿としかいいようがないほどのお人好しで、そのくせ自分の考えは譲らない頑固者だった。お前を見ていると思い出して苛々する」


 ひどく苦々しい表情なのに、その声は愛おしむように優しい。


「それなら、私はその人に感謝しなくちゃですね。テオさんが私を気にかけてくれているのは、その方のおかげですもんね」

「馬鹿もここまでくると尊敬に値する」


 冷笑ともいえるものではあるけれど、テオさんの口に初めて笑みが浮かぶ。

 それが何だか嬉しくて私も笑みを返す。


「僕がいない間に、随分と仲良くなったんだね」

「レイ!?」


 振り返れば、そこにはレイの姿があった。

 レイは、どこか含みのある笑いを浮かべ、テオさんを見る。


「テオでもそんな顔をするんだな。それとも、カイル兄上といた頃はそんな感じだったのかな?」

「カイル?」


 いきなり出て来たカイルの名に驚きレイを見る。


「あれ? 君は知らないんだね。カイル兄上は小さい頃、テオと一緒に暮らしていたんだよ」

「えぇ!? そうなの?」


 まさかカイルとテオさんに接点があるなんて思いもしなかった。


「ほら、君がいたあの屋敷。あそこで、カイル兄上とテオとあともう一人。名前は確か……」

「レイ。しゃべりすぎだ」


 不快感を露わにした表情で鋭く言い放つ。


「このくらいの嫌がらせ優しいものだろ。僕を仲間外れにするからいけないんだ」


 拗ねたようにそう言って、唐突に私の肩を抱き寄せる。


「なっ……きゃっ」


 そのまま抱きしめられそうになって、反射的に押し戻そうとした時、足がもつれて倒れ込む。

 幸い倒れたのはベットの上。

 大した衝撃もなかった。


「!?」


 ホッとしたのもつかの間、レイは両手を付き、私を挟み込む形で上から覗き込む。

 まるで、押し倒されたかのようなシュチュエーション。


「大胆だね。その恰好といい僕を誘惑するつもり?」


 言われて、スカートをたくし上げ、太ももまで露わになったまぬけな恰好を思い出し、一気に頬が熱くなる。


「こ、これは……」

「ひどいな。この国を抜けるまでは、君に手を出さないように我慢しているのに」


 艶を含む声音に思わず言いかけた言葉が凍る。


「こんなに僕の心をかき乱してひどい人だ」


 頬に触れられビクリと体が震える。

 けれど、怯えているなんて悟られるのが癪で、そのままレイの目を真っ直ぐに見返す。


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