脱出大作戦!?(4)
ほどなくしてついた部屋に入ると、そこにネリーの姿があった。
「え!? リルディ?」
私の姿を見、ネリーは驚きの声を発し目を瞬く。
「大丈夫? 元気にしていた?」
「うん。ま、不自由ではあるけれどね。とりあえずは元気よ。そんなことより、あなたはどうやって此処に? それにその恰好……」
あぁ、そうだった。
スカートを捲し上げたままという、なんとも間抜けな恰好をしているんだった。
「あはは。ちょっと、抜け出すのに邪魔だったから」
「抜け出す!? なんて無謀なことを……」
そう言いながら隣りにいるテオさんを見、何かを察したのか、ネリーは呆れたように頭を振る。
「巻き込んでしまって本当にごめんなさい」
「馬鹿ね。勝手に巻き込まれたのは私なのよ?」
謝罪する私を見ながらネリーは苦笑する。
「それにしても、あなたって本当にお姫様なのよね? その髪色とかも、違和感ありまくりだし。なんでまた、メイドなんてやって、しかも拉致監禁されているのかしらね」
「話せば長くなるんだけどね。落ち着いたら全部話すから」
「それは無理だろうな」
部屋の隅で傍観していたテオさんが唐突にそう言い放つ。
「どういう意味?」
「三日後には、レイはお前を連れてこの国を出るつもりだ。そうなれば、もう二度とここには戻らないだろう」
「なにそれっ。ていうか、私はどうなるわけ!?」
「さぁな。レイはお前のことは、眼中にないからな。良くて置き去り。悪ければ、適当に始末するんじゃないか?」
その言葉に、私もネリーも血の気が引く。
淡々ととんでもなく恐ろしいことを言ってくれる。
(ネリーだけでも絶対に逃がさなくちゃ)
何とかしなくちゃという思いがグルグルまわるけれど、何をどうしていいのか分からず、途方に暮れる。
「今の時間帯は警備が手薄だ。レイも外に出ている」
「?」
まるで独り言のように呟くテオさん。
見上げると、本当にこちらを見てはいない。
「たまたま鍵をかけ忘れて、たまたま運よく、捕虜が一人逃げてもしばらくは気が付かないだろう」
「そ、それって……」
「一階の西側の部屋の窓から出れば、裏門へ続く小道に出られる。裏門の鍵もたまたま落としたようだ」
懐から取り出した鍵の束の中から、一つ抜き取りネリーに投げ渡す。
「それなら、リルディも一緒に……」
「そいつの見張りは俺だ。たまたま逃げ出すことはありえない」
テオさんが見逃せるのはネリーだけということなのね。
「ネリー。私は大丈夫だから、早くここから脱出して」
「リルディを置いていけるわけないでしょ!?」
「ありがとう。ネリー」
すごくうれしい言葉だ。
私はギュっとネリーに抱きつく。
「行って。屋敷にクラウスという人がいるから、このことを伝えて」
抱きついたまま耳元でそう囁く。
情けないけれど、私だけの力ではどうしようもないかもしれない。
でもクラウスなら、きっとここから助け出す手助けをしてくれるはずだ。
一瞬、カイルの顔が過ったけれど、それを慌てて打ち消す。
カイルが来てくれたらいいのに……なんて、あまりにも図々しい願いだ。
「……」
私の言葉で察したのか、ネリーは無言のまま、ただ真剣な眼差しで私を見、小さく頷くと、部屋を後にした。
「戻るぞ」
「……はい」
まるで何事もなかったかのように、テオさんは踵を返す。
(どうか、ネリーが無事に脱出できますように)
私は心の中でそう強く願った。