脱走大作戦!?(3)
(テオさん!?)
今まさに部屋の扉を開けた……という状態で、サルのように屋根からぶら下がっている私を見、扉に手をかけたまま硬直している。
「……」
「……あはは」
間に耐えきれず乾いた笑いを浮かべる。
バタン。
無表情のまま、テオさんは何事もなかったかのように扉を閉めた。
(見なかったことにされた!? 何だか捕まるより居たたまれない……)
誰かを呼びに行ったのかもしれないけれど、さすがにこれ以上この醜態をさらすわけにはいかない。
バルコニーへ降り立つには少し高さがあるけれど、上に昇る体力がない以上、下に降りるしかない。
「!」
意を決して手を離した瞬間、目の前にテオさんが現れる。
「お前は本当に一国の姫なのか?」
呆れたように言い放ちながら、私の体を逞しい腕が支える。
「あ、ありがとうございます」
「お前に傷が付けば、レイに何を言われるかわからない」
テオさんは空中に浮かんだまま、私の体を支えている。
一瞬で姿を現し、こうも簡単に空で均衡を保っている。
やはりテオさんはすごい魔術師なのだろう。
「チッ。貴様には緊張感というものがないのか?」
思わず見惚れていた私の視線が不快だったのか、彫刻のように綺麗な顔を歪ませ、舌打ちをする。
「ごめんなさい」
「……」
盛大なため息を吐かれ、バルコニーの上へと降ろされる。
「サッサと部屋に戻れ」
「嫌です」
私の即答に剣呑な視線を向ける。
「ネリーに会わせてください」
「私にその権限はない」
「それなら、勝手に探します」
「お前を部屋から出さぬように命をうけている。このまま、放置は出来ない」
そう言い放ち、無造作に私の腕を掴む。
「放してっ」
キイィン!
「!?」
「!」
触れた瞬間、耳に痛いほどの高い音と眩い光。
呆気にとられる私の前には、膝をつき苦痛の表情を浮かべたテオさんの姿があった。
「……お前、何なんだ?」
何か得体のしれないものを見る眼差しで、驚愕の表情を浮かべている。
「だ、大丈夫?」
あまりにも顔色が悪いので、今の状態を忘れてオロオロとしてしまう。
「大丈夫なわけがない。今ので、魔力を根こそぎそがれた」
「魔力? あっ」
その言葉で、前にアランが言っていた言葉を思い出す。
私には、相手の魔術を無効化できる力があるのだと。
「ごめんなさい。もしかしたら、私の所為かもしれない」
「どういう意味だ?」
「えっと、私、魔術を拒絶できる力があるらしくて」
「!?」
自分でも半信半疑なその力。
聞いたテオさんも絶句してしまっている。
(何だか自分で言ってて胡散臭いわ。本当にそうなのか、ちょっと自信がなくなってきた)
長い沈黙が続いて、居たたまれない気持ちになってしまう。
「……そういうことか。だからあいつは……」
「え?」
やがて呟いた言葉は断片的で意味の分からない言葉。
「来い」
立ち上がり、何事もなかったように私を促す。
「だから……」
「会いたいのだろ。お前と来た女に」
「え?」
「会わせてやる。付いて来い」
急に態度を変えたテオさんに、唖然としてしまう。
付いていくべきなのか迷う間に、テオさんはサッサと部屋を出て行ってしまった。
「うん。きっと大丈夫」
今はテオさんを信じよう。
そう、決心して私はその後を追った。