脱走大作戦!?(1)
リルディアーナ視点。
囚われの身で数日が過ぎ……。
「おはよう。今日も綺麗だね。リルディアーナ」
「……」
レイに連れ去られて、数日が過ぎようとしている。
毎日のパータンは決まっている。
ヒラヒラビラビラした、色とりどりの無駄に豪華で綺麗な衣装を着て、訪れるレイと食事をしたり話をしたり散歩をしたり。
レイは“綺麗”とか“可愛い”とか“愛してる”とか、惜しげもなく口にする。
まるで甘やかな逢瀬の言葉だけど、それは私の心をひどく空虚にするばかりだ。
レイは、私の答えなんて求めてはいない。
ただ一方的な想いで私をしばりつける。
これじゃあまるで、愛でられるだけの人形のようだ。
「こんなこと、いつまで続けるつもりなの?」
お茶の時間に現れたレイに、私は棘のある声で問いかける。
「こんなこと?」
さも不思議そうに、意味が分からないというように小首を傾げられ、ムッとしてレイを思い切り睨む。
「こんなところに私を閉じ込めて、毎日お茶を飲んだり散歩をしたり……。こんなことに何の意味があるの!?」
「意味はあるよ。僕が楽しいから」
怒りを露わにする私とは対照的に、レイはいつもと変わらない爽やかな笑みを浮かべるばかりだ。
「私は楽しくないわ」
「ごめんね。残念だけど、この国を出るまでは大人しくしていなくちゃいけないんだ。だけど、外に出ればきっと楽しいと思うよ。なにせ、この世界はとても広いんだから」
「私は……それを望まないわ。どうしても、あなたと行く気にはならない」
「それは、カイル兄上の所為?」
相変わらず笑みを絶やさず、けれどその目の奥が色を変えたような気がした。
「……カイルだけじゃないわ。私には大事な人たちがいるの」
「そうだね。あの“ネリー”というメイドもその一人なんだろうね」
「!? ネリーに会わせてよ。こうして大人しくしているのだから、一度くらい願いを聞いてくれてもいいでしょう?」
脅しのような言葉を囁かれたあの日から、ネリーと会わせてもらっていない。
私の身の回りの世話をしている人に聞いても、知らないの一点ばり。
何度レイに頼んでも、いつも受け流されてしまう。
「君はそればかりだね。少し妬けてしまうな。だけど僕の答えもいつもと同じだ。あの女に危害は加えない。だけど、君には会わせない。君はもう僕だけのものだから」
「……」
もう何度目か分からないやりとり。
殴り倒したい。
思わずそんなことを思いながら、何とか拳を握りしめるだけで押しとどめる。
「うん。怒っている君も可愛いな」
「……」
あぁ。やっぱり殴り倒したいわ。
目の前で上機嫌にほほ笑む男を前に、テーブルの下にしまった拳に更に力が入った。