魔術師、姫君と旧友に会う(1)
アラン視点。
久しぶりの再会。
それはある意味、波乱の幕開け。
「あっちぃなぁ」
日が昇ってそれほど経っていないというのに、太陽は容赦なく地上を照りつけやがる。
まったくこの大陸は暑すぎる。
丸いフレームの色つきメガネ越しに、せっかちな太陽を仰ぎ見る。
「真っ昼間に外に出るのは好きじゃねぇんだつーの」
それでもここに来たのは、やんごとない理由があるからだ。
(ま、俺も気になるしな)
『太陽の姫君』
あいつが溺愛している姫様。
俺だって知らない仲じゃない。
面白半分興味半分。
さぁて、これからどうなることやら。
………………
俺をみたクラウスは、面白いほどに想像通りの反応をした。
端整な顔を歪ませ、俺を指す指がフルフルと震えている。
「よう。ご両人。今日も暑いですな」
「アラン! うわぁ、こんなところで会うなんて、何て偶然なの! 久しぶり。元気にしていた?」
反対に、太陽の姫君こと、リルディアーナは満面の笑みを浮かべて、子犬のように無邪気に俺に駆けよる。
金の髪がキラキラと日の光を受けて輝いている。
この大陸では、滅多に見ることのない金の髪。
人が集まる宿の前。
見事に注目の的だ。
よくもまぁ、こんな目立ちまくりで、ここまで無事だったもんだ。
あきれを通り越して、感心しちまうぜ。
「よぅ。姫さん。こりゃまた、元気そうだな」
旅を始めて、確か今日で6日目じゃなかったか?
見た目に似合わずタフな姫さんだ。
かわりにクラウスは見事にやつれている。
クソ真面目なこいつのことだ。
同室で寝ずの番。
なんつーことをやったりしてんだろーな。
昔から、要領の悪さは天下一品な奴だ。
「アラン! 貴様、なぜココに? 何の用だ!?」
やっと我に返ったクラウスが、すげー勢いで俺に詰め寄る。
「お前、目が充血してるぞ? つか、目の下のクマすごっ。そんなんじゃ、愛しのドS彼女に捨てられるぞ?」
「余計なお世話だ! それにイザベラはドSじゃないっ。少しばかり愛情表現が激しいだけだ」
「いや、それをドSと言うんじゃねーの?」
思わずツッコみをいれてしまう。
「いいから答えろ。俺は何の用か聞いているんだ!」
胸倉をつかまれて、おもいっきり凄まれた。
「お前、周り見えなさすぎ。いいわけ? ギャラリーだらけだけど」
ただでさえ、目立つ姫さんがいるつーのに、クラウスが騒ぎたてる所為で、更に注目が集まってきている。
そのことに気づいて、ぶっちょう面のまま俺から手を離す。
「姫様行きましょう。こいつと居ても時間の無駄です!」
「え~? せっかく久しぶりなのに。クラウスってば」
有無を言わさず姫さんの手を取ると、俺を無視してスタスタと歩き出す。
「たくっ。短気な奴」
クラウスのあまりにも素直な反応に、俺はやれやれと肩をすくめる。
パチンッ。
手を空に向け俺は指を鳴らす。
そうすると、そこは別空間になる。
だだ広いだけの真っ白な何もない空間。
正確には、外部と遮断して視覚を惑わせているだけなのだが、魔術師でないものにとっては、別空間と同意儀だろう。
「な、なにこれ!? すごーい」
感嘆の声を漏らす姫さん。
やっぱり肝が据わっている。
こんな事態をみても、恐れるどころかむしろ面白がっているようにもみえる。
『お姫様』という肩書きであることが残念だ。
姫さんは間違いなく『コチラ側』でもやっていける素質がある。
などと言ったら、クラウスに殺されかねねーが。
「どういうつもりだ!」
殺気だったクラウスの声。
つり上がり気味の三白眼で睨まれると、さすがに迫力がある。
こいつも素でこういう目が出来るようになったかと、思うと妙に感慨深い。
「お前が人の話を聞かねーからだろ? まあ、落ち着け」
「アラン、これも魔術? ココってさっきと違うところだよね? どこかの部屋?」
イライラとしているクラウスの横で、姫さんはワクワクとした様子だ。
「ご名答。魔術でちょいと密室を作ったんだ。ギャラリーが多すぎるし、短気で話を聞かない奴もいるし」
「お前と関わるとロクなことがないんだ! 姫様にも悪影響が!!」
散々な言われようだ。
確かに、俺はこの世界では異質な『魔術師』でなおかつ『赤毛の死に神』と異名を持つほどに、暗殺業に長けている。
教育上、いいとはいえない存在とは自負しているが。
「クラウス! アランとは昔からの知り合いでしょう? それに、魔術師は立派なお仕事よ。そういう言い方は失礼だわ」
「……」
クラウスは何とも言えない顔をしている。
俺とクラウスは暗殺一味の『見習い』だった。
クラウスはそこから逃げ出し『騎士』に。
俺はそこで這い上がり『ナンバー2』になった。
そんな裏事情、姫さんは何も知らない。
ただ、俺とクラウスが『元同僚』で、俺は『魔術師』だということしか知らない。
知ったら嫌悪されるか恐がられるか。
どういう反応をするか気になるが、それこそクラウスに殺されるから黙っておこう。
こいつは、姫さんの前では抜け作三枚目なくせに、戦闘に関しては天才的な実力を持っている。
小細工抜きにしたら負ける自信がある。
小細工を抜きにしたら……だが。
「仕方ないさ。しょせん『魔術師』はこの大陸じゃあ嫌われもの。クラウスだって、『魔術師』の俺となんて、できれば関わりたくないだろうし」
ちょっと芝居じみて自嘲気味に言ってみる。
「そんなことないわよ! 私はアランと友人で嬉しいわ。クラウスだってそうでしょ?」
「……」
眩しいほどにキラキラとした瞳で、クラウスを見る姫さん。
「……で、アラン。この暴挙の理由は何だ?」
憮然としていたクラウスは、姫さんの問いかけをスルーして、俺に言葉をなげる。
「暴挙なんて誤解だ。俺は姫さんに協力しようと、はせ参じたのさ」
そう言って、俺は恭しく頭を垂れた。