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そして姫君は恋を知る  作者: 未華
すれ違い編~そして想いは交錯する~
108/180

騎士と姫君

リルディアーナ視点。

カイルと離れたくないリルディアーナ。

けれど、事態は更によくない方向へ……。

「最悪!」


 逃げ出すように部屋を後にしてたどり着いたのは、屋敷の中庭。

 誰もいないことを確認して、言葉を吐き出す。

 すごく腹が立って仕方がない。

 いきなり現れて、私の気持ちなんてちっとも聞こうとしない父様にもだけれど、不甲斐ない自分に一番腹が立つ。

 父様の言葉に、何一つ反論が出来なかった。



『お前みたいにピーピー文句言って逃げ出すマネなんかしてねーぜ?』



「逃げたわけじゃないもん」


 ただ、きちんと知りたいと思ったから。

 イセン国王がどんな人で、私のことをどんな風に思っているのか。

 だけど、ここでカイルに会って恋をして、初めてメイドをして友達も出来た。

 大変だけど、すごく幸せで楽しくて、毎日がキラキラしていた。



『そんな恰好で髪の色まで変えてメイドの真似事してたわけだろ? 俺には、ごっこ遊びにしかみえねーよ』



 こんなに充実した時間を、“遊び”で片付けられるわけがない。

 けれど同時に、自分がしていることがどれだけはた迷惑かってことも、今更ながら十分気が付いている。

 父様だって、本来であればエドと一緒にリンゲン国にいるはずなのだ。


(きっと話を聞いて飛んできたんだわ)


 それなのに、癇癪を起してこんなところに逃げてしまった。

 驚き言葉なく立ち尽くしていた、カイルの姿を思い出す。

 ユーゴさんから、私を庇ってくれたっていうのに、お礼の一つも言わずに出てきてしまった。


「きっと呆れているわ」

「確かにな。盛大な親子げんかに、口を挟む暇もなかった」

「!?」


 呟いた言葉に返答され、驚き顔をあげると、そこにはカイルの姿があった。


「うっ」


 思わず手短にあった柱の陰に体をすべり込ませる。


「って、おいっ。なんで隠れる」

「あ、合わせる顔がないんだもの。まさか父様がいるなんて。また迷惑をかけてしまって」


 あんな姿をみられて恥ずかしいどころの話じゃない。


「……迷惑じゃない。俺は、お前のことを迷惑だと思ったことはない」


 そう言いながら早足で近づき、柱に身を寄せていた私の前に立つ。


「お前は、突拍子がなくてはねっ返りで、ひどく危なっかしくて放っておけない」

「それって、やっぱり迷惑をかけているってことじゃないっ」


 カイルのフォローにもならないフォローに思わず脱力してしまう。

 でも、わざわざ追いかけて来てくれたことが嬉しい。

 おかげで覚悟が決まった。


「きちんと戻って父様と話をしてくるわ」

「待ってくれ。その前に話が……」

「姫様!」


 カイルが何か言いかけたその時、唐突に聞こえてきた懐かしい声。


「!?」


 顔を見なくてもそれが誰かなんてわかる。

 私は弾かれたように、声がした方へと駆け出す。

 小さな頃から一緒にいる私の大切な騎士。

 一番の理解者。

 懐かしいその姿が目に飛び込んできて、目頭が熱くなっていく。


「クラウス!!」


 そのまま飛びつき、腕を首に巻きつける。

 そうすると、クラウスの腕が軽々と私の体を持ち上げた。

 もうやらないって約束したけれど、きっと今は特例でイザベラだって許してくれるはずだ。


「ご無事なのですね」


 ギュっと抱きついているから、クラウスの顔は見えない。

 けれどその優しい声は、私が慣れ親しんだクラウスの声だ。


「見ての通り私は元気。クラウスは元気だったの?」


 顔を上げて、クラウスをマジマジとみるけれど、どうやら怪我はしていないみたいだ。


「はい。俺も元気ですよ。ちょっと遠くまで行きすぎて、迎えが遅くなってしまいました」

「私の所為で、ひどい目にあわせてごめんなさい」

「え!? いや、姫様が謝ることなんて何もないです! 俺が姫様を守りきれなくて、おひとりにさせてしまって。さぞ、心細かったでしょう?」

「大丈夫。私は一人じゃなかったもの。えっと話と長くなるんだけど。とりあえず紹介するわね。ちょっと待っていて」


 思わず我を忘れて飛び出してしまったけれど、ここにはカイルもいるのだ。

 そう考えると、クラウスに子供みたいに抱きついて、ものすごく恥ずかしくなってきた。

 慌てて、クラウスから身を離し、カイルの元へ駆け戻る。


「カイル、ごめんなさい。話の途中で」

「……」

「あの、さっき言いかけたのって……」

「もうお前の気持ちは分かった。だから話す必要はなくなった」

「え? どういうこと?」


 カイルの固い声が私の胸をざわつかせる。


「あいつが、お前の待っていた相手なんだろ?」

「うん。クラウス。私の……」

「別にあいつがお前の何なのかなど興味はない」

「カイル?」


 その突き放すような響きに驚く。


「迎えが来たのだから、もう帰るのだろう? よかったな」


 それだけ言い捨てるとカイルは踵を返す。


「ま、待って。でもね、カイル。私は……」

「俺も助かる。お前の子守からやっと解放されるのだからな」

「!?」


 言葉が胸に突き刺さる。

 背中越しのカイルの表情はみえないけれど、その声音は私を拒絶するかのように冷たい。


「……」


 返す言葉もなく立ち尽くす私を置いて、カイルは一度も振り返ることなく去っていった。


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