意外な再会
リルディアーナ視点。
それは突然に訪れた。
「……」
「……」
「……」
私とカイルは、ただ黙って前を行くユーゴさんの後に続く。
聞きたいことが山ほどあるけれど、とても口を開ける雰囲気ではない。
(まさか、最初から私のことを知っていたなんて)
しかもクラウスから聞いたわけでもないと言うし、ますますわけが分からない。
向かっている先に誰がいるのか、カイルには心当たりがあるだろうか?
チラリとカイルを見ると目が合い、先ほどの光景を思い出してしまって、慌てて視線を逸らす。
(さっきのって何だったんだろ?)
書庫で、急に不機嫌になって頬をつねったカイルが、次の瞬間には優しい眼差しで私を見ていて。
そうしたら何だかすごく、胸の辺りがホワホワして温かくなった。
カイルに触れたい近づきたいっていう衝動に駆られて、気が付いたら、カイルに引き込まれていて。
もしユーゴさんが現れなかったら、どうしていたんだろう?
もう一度、視線を向けると、カイルが何か言いたげに私を見ている。
「……」
「……」
けれど、結局何も言わず、私も何を言っていいのか分からず、お互い視線を泳がせながら、それでいて気になってまた目がいってしまう。
すごく不毛なやり取りを繰り返すつつ、いつの間にか目的地にたどり着いた。
そこは屋敷の離れに位置する場所。
お客様の連れてきた従者を泊めるための建物で、少し質素な雰囲気であまり人の出入りもない。
私も一度だけ案内されて見学した程度だった。
掃除も言いつけられたことがなかったのは、どうやらお客様がいたからのようだ。
「失礼します」
部屋の前で一声かけ、相手の返事を聞く前に、ユーゴさんは無遠慮に扉を開ける。
「おう。ご苦労さん」
よく通るその声に心臓が飛び上がる。
だってこの声は、ココには絶対いるはずのない人のそれに良く似ている。
「……」
果たして、一歩部屋に入り見つけたその姿に言葉を無くす。
“なんで”とか“どうして”とか、いろんなものを超越して、適切な言葉を見失って絶句する。
「ぷっ。あはははははははははははは」
対して、私の姿を認めた相手は爆笑した。
私の隣りで唖然とするカイル。
一歩引いた位置にいるユーゴさんは無表情のまま。
でも、きっと盛大に呆れているに違いない。
「あ、ありえない」
言葉を絞り出す。
少し震えたのは感動したからじゃない。
本気でいら立ったからだ。
「あはははっ。マジ腹痛い。そんな恰好して何やってんのお前」
「そっくりそのまま返すわっ。こんなところで何をしているのよ! 父様っ」
そう、目の前でお腹を抱えて笑っている人物こそ、エルン国の王であり、私の父でもあるフレデリク・エルンその人だった。