表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして姫君は恋を知る  作者: 未華
すれ違い編~そして想いは交錯する~
103/180

伝えられない言葉・抑えられない想い(2)


「……魔術をかけるから動くなよ」


 この醜い感情を悟られぬよう、リルディから視線をそらし、素知らぬふりでまじないの言葉を転がす。


 パアァン。


 見事な金の髪は黒へと変わる。


「終わったぞ」

「うん。ありがとう」


 礼を言いつつ、リルディの表情は晴れないままだ。


「そんな顔をするな」


 たまらずリルディの頬に触れる。


「カ、カイル?」

「迎えはすぐに来る」


 来なければいいと心底思っているが……という言葉を飲み込み、触れていた頬を軽くつねる。


「うにゃ。はに?」

「なんかムカついた」


 リルディの心にいるのが自分ではないのだと考えると、無性に苛立ちが募る。

 そのまま言葉に出来ればどんなに楽だろうと思うが、そんなこと出来るはずもなく、我ながら子供じみた真似をしてしまった。


「ムカついたってなんで?」

「何でもだ」


 俺の無茶苦茶な答えに、目を瞬かせ不思議そうな顔をしている。

 このまま触れた指を離すのは名残惜しく、そのまま再度頬を包み込む。


「……」


 俺を見上げるリルディの瞳は前のような怯えを含んではいない。

 おずおずと俺の手に自分の手を重ね小さくほほ笑む。

 熱く潤むその瞳は俺を誘っているかのようで。


「リルディ」


 熱に浮かされるかのように、俺は身を屈めリルディとの距離を詰める。


「何をされているのですか?」


 お互いの息遣いさえ聞こえそうな距離に到達したその時、目が覚めるかのような現実的な声が響く。


「あ……」

「う……」


 お互い我に返り、至近距離で目が合い、俺とリルディは間抜けとしかいいようのない声を発する。


「す、すまない」

「ご、ごめんなさい!」


 即座に身を離してから、なぜか意味もなく二人で謝罪の言葉を口にする。


「……」

「……」


 もし、声をかけられていなかったら、間違いなく口づけをしていただろう。

 いや、それだけで歯止めがきけばいいが、それ以上のことをしていたやもしれない。


(俺はいつの間に、こいつにこんなに溺れていたのだ?)


 リルディを好きだという自覚がなかったわけではない。

 だが、ここまで自制心が働かないとは思いもしなかった。


「はぁ……」


 深いため息が聞こえ、振り返るとそこには、ユーゴが恐ろしく殺気だった様子で立っていた。


「ユーゴさん!?」


 リルディも同じく、今ユーゴの存在を認識したようで、ひどく青ざめた顔をしている。


「あなた方は、この非常事態になにをしているのですか?」

「な、な、な、何って! な、何もしてないですっ」

「メイドが仕事もせず、こんなところにいるのは問題だと思いますが?」

「うっ」


 いつかの俺のようにリルディが墓穴を掘り、絶対零度の視線を向けられ黙り込む。


「そんなことより、非常事態とは何のことだ?」


 いいようのない空気の中、俺はつとめて冷静を装い問いを放つ。


「暗殺者が入り込み、しかもそれが悪名高いイサーク・セサルの手の者となれば、非常事態と言わざる得ないでしょう」

「気づいていたのか?」


 隠し通せたと思ったが、ユーゴにはバレていたらしい。


「どうして!? あの時、ネリーが止めてくれたはずなのに」

「私はこの屋敷の執事。知らないことなどありません。あなたのことも初めから気づいていましたよ。リルディアーナ姫」

「!?」

「なっ」


 思いもしなかったその言葉に、俺とリルディは唖然とする。


「あ、もしかしてクラウスに聞いていたの?」

「いいえ。そうではありません」

「それじゃあ……」

「お二人に会わせたい方がいます」


 ユーゴの淡々とした言葉がリルディの言葉を遮る。


「どういうことだ? 誰に会えというんだ?」

「このバカバカしい茶番を仕組んだ人物にです」


 俺の問いに、ユーゴは心底不機嫌そうに答えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ