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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

灰の殻

掲載日:2026/04/16

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 灰色、と聞いてみんなはどのような印象があるだろう。

 はつらつとしたイメージとは、ちょっと結びつきがたいんじゃないだろうか。落ち着いた渋めな感じで、派手に目立ちたがるのとは対極。ずっしりと腰を押し付けているような重さだ。

 白と黒の間ともいうべき無彩色。目の前が真っ白になるとか、真っ暗になるとか、あたかも何もなくなってしまったかのように例えるときは、これらの色表現が使われる。「灰色の〇〇~」みたいな感じで、色褪せてしまったものを形容するときにもね。

 もともと、そなえていたものがなくなってしまった抜け殻部分。本来求められていた仕事はもはや果たせなくなったかもしれないが、なにもできないとは限らない。灰色にだって求められる部分がある。

 先生が昔にとらえた、灰色の出番について少し聞いてみないかい?


 あれは残暑厳しい9月のころだった。


「灰の殻を探そうぜ!」


 そう友達のひとりに誘われたんだ。

 最初聞いたときは、てっきりセミの抜け殻の残りでも探すのかと思った。抜け殻の数を競うのは毎年の恒例行事のひとつ。夏休みにやったばかりだった。

 そのときはこちらの勝ちだったし、リベンジでもしたいのかな、と。とはいえ、このあたりの抜け殻たちはみんなが精を出して、取りつくしてしまったはず。新たに現れたもののみともなれば数もしれたものだろう。

 しかし、どうも友達のいう灰の殻なるものは、想像していたものと違うらしい。


「じゃあ、これを塗って。顔とか手足とか、肌が出ているところだけでいいよ」


 おしろいが入っているような丸いケースを渡された。クラスで演劇をするときに、一度使ったものに似ている。

 けれども、中に入っていたのは灰色をした粉末。指触りはかなりさらさらしていて、軽く指に乗せたくらいじゃ、ちっとも表面にとどまらず滑り落ちてしまうほど。

 しかし、少し力を込めてこすりつけると、今度はぴったりと肌へくっつく。先生は友達とそろって灰色ペイントを施していき、どこぞの部族民になったかのようだった。

 この装いをすることで、灰の殻とやらを探す条件が整うのだと、彼は話していたよ。


 友達の様子を見る限り、お宝みたいなブツの気配。けれどもお宝といったら目立ちそうなものだし、この勝手知ったる地元で真新しいものなぞ見つかるのか? と先生は疑わしく思っていたよ。


 いま先生と友達がいるのは公園。友達が来るより先に先生が来ていて、遊具含めた園内のもろもろは見て回っている。その中で、特に気になるものは見当たらなかったんだ。

 あいつの探すものも、まさかこの園内にはないだろう……と勝手に思っていたのだけど、この灰のペイントをしてから公園真ん中に立つ木の幹へ向かってみたところ。

 ぱっと見て、羽を閉じてとまる蝶か蛾のように思えた。だが、そのサイズは手のひらにおさまらないほどで、先生はつい身を引いてしまう。

 大きさもさることながら、先ほどまで公園を見ていた身としては、このようなものがなかったのはすでに分かっていたこと。新たにやってくる様子もなかったのに、どこから現れたのかと思ったさ。


「こいつをしていると、見つけることができるんだ」


 先生の疑問に、友達は灰まみれになった顔を指さしながら答える。

 灰の殻というだけあるのか、軽く枝で突っついても、木から離して手のひらに乗せても、こいつは微動だにしなかった。むしろ力の込め方を間違えると、端のほうからポロリと破片がこぼれてしまう有様だったよ。


 そうして二人、町へ繰り出して同じように灰の殻たちを探していったんだ。

 奇妙だったよ。休みの日の昼だというのに、殻を探している間は人や車などの気配が、町の中から全然しなかったんだ。やはり、灰を身体に塗る前まではしきりにそれらの喧騒が耳を打っていたというのに。

 建物の中には入るな、というのが友達からの注意ごとだった。それをやると、今日はもう灰の殻と出会えなくなってしまうから、とのことだったよ。

 先生が考えるに、この灰をまとうだけじゃなくて、外気とのふれあいを保ち続けることがこの不思議な空間の維持に重要なのではないか、と思っている。

 そうして二人して、町中を歩き回ったな。神社とか広々とした駐車場のような、普段遊び場としているようなところから、立ち入り禁止の柵の向こうや、お店屋さんの外側に取り付けられた非常階段の先にある屋上まで。そこが外である限りは、自分たち以外に出入りする者はひとりもあらわれなかった。


 その中で二人、灰の殻を探していく。

 先ほどのような蝶や蛾に似たもののこともあったが、別の生き物の姿をしていることもあったけれど、例の灰まみれという点で簡単に判断がつく。

 これらは先ほど挙げたような場所の、そこかしこで見つかった。両手で持ちきれなくなると、先ほどの集合のときとは別の公園へ持っていく運びになる。

 先の公園はテニスコート数面分の面積はあったが、今度の公園は猫の額ほどの狭さでベンチと砂場まわりをのぞけば、一緒に遊べる子供たちはせいぜい5,6人といったところだろう。

 でも、今日はそのど真ん中に赤銅色をしたドラム缶が、でんと置いてある。その中へ持ち寄った灰の殻をぽんぽんと放り込むよう、友達に指示されていた。


「こいつは町の出す、汗とか垢みたいなものなんだ。定期的にきれいにしてやらないと調子を崩しちゃう。でも恥ずかしいところは誰だって隠そうとしちゃうだろ? だから、それをさらけ出してもいいんだよ~、と合図をしてあげる。それがこの灰まみれの格好なのさ」


 殻を回収しながら、友達はそのように話してくれた。

 二人で学区内を回っていき、あとはもう一度近所回りを確認……という段に来て、トラブルがあった。

 それはとある材木店の、材料保管の小屋近くまで来た時だ。

 壁には公園で見た時と同じような手のひらに収まらない大きさの灰の蝶が止まっていたが、姿を認めた先生たちの顔にぽつんと降ってくるものがあった。

 雨だ。降りはすぐに激しくなり、先生たちの灰のペイントを流さんばかりになるが、友達は愕然としていたよ。

 人の気配と同じように、ペイントをしているあいだ天気が変わることはなかったのだそうだ。しかも顔も手足もしたたかに雨粒に打たれて、灰がとれてしまったためか、にわかにあたりから人の話し声などが聞こえ始めてくることに。

 例の灰の殻も、すっかり見えなくなってしまっていた。試しにその場所へ向かって手をいくら伸ばしても触れられる気配は全くなかったんだよ。


 翌日に、その小屋はぺしゃんこにつぶれてしまった。

 周りの人はだいぶ古かったし、傷みに耐えかねたのだろうと話していたが、もし先生たちが殻を取り除けられていたなら、違っていたのかな……とも思っているんだ。

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