保護したツンデレ猫からのバレンタインプレゼント
2月に入ると、店頭がチョコレートで埋まる。
その光景をみる度に、昔の後悔が頭を過ぎる。
あるバレンタインの朝、家の前の側溝に寒さで震えていた白い毛の目のクリっとした雌猫がいた。
保護して名前をみきとつけた。
野良生活が長いのか、警戒心が強く、なかなかなつかなかった。
撫でようとすると逃げる。声をかけると無視する。
それなのに、みきは気がつくと横にちょこんと座っている。
ツンデレという言葉がぴったり当てはまる。
ある時、みきが一枚の写真の前から動かないことに気づいた。
写真立てに入れた、高校時代の剣道部の集合写真。
夜、みきは布団には入らないが、必ず少し離れたところにいる。
朝になると、起こしに来る。
からだを撫でようとすると逃げていたみきは、目の間を指で撫でるときだけ、ゴロゴロ喉をならしながら、目をつむり、気持ちよさそうにしている。
それ以外は、いつも通り素っ気ない。
3月14日、猫用のホワイトチョコ――正確には、ホワイトデー用の特別なおやつを用意した。
皿を見た瞬間、信じられないほど喜んだ。
その時、みきを見て、はっとした。
高校の時にチョコをくれた美久ちゃんに似ている。
斜め後ろを振り向いて、ニコッと笑う仕草が。
美久ちゃんには、ホワイトデーのお返しも、返事もしなかった。
美久ちゃんは、勇気を振り絞って、ぼくにチョコをくれたのに。
バレンタインデーが来るたび、ごめんとつぶやき後悔した。
その翌日、みきが突然倒れた。
医者は、原因不明。今日明日が山だと。
保護した時の、段ボールに入れてあげたみきは、苦しそうに呼吸をしていた。
ぼくは、尋ねていた。
「みき。みき自身がぼくへのバレンタインプレゼントだったのか?」
一瞬、頷いたように見えた。
「ホワイトデーのみきへのプレゼント、気に入ってくれた?」
2回、頷いたように見えた。
「あの時のホワイトデー、お返ししなくて、ごめん」
みきは、ずっとぼくを見つめていた。
「チョコを初めてもらって嬉しかった」
と、みきの目の間を指で撫でながら言った。
「美久ちゃんだろ?」
みきは、ぼくを見つめながら静かに目を閉じた。
一週間後。
家にみきはいない。
額の中の写真だけが残った。
ホワイトデー用のお菓子の前に座り、目をくりくりさせてカメラを見つめるみき。
信じられないくらい喜んだ表情で。




