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処刑された公爵夫人の死に戻り体験  作者: 観夕湊


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4/11

2.すべて適切な瞬間に(2)

(いかん、本題を忘れるところだった)


 この次会ったらあの侯爵には何と言ってやったら良いものか。ついそんなことを考えそうになって、ラファエロは慌てて脳裏から気弱な男を追い払った。懐から書簡を取り出そうとした右手は、しかし書簡ではなく小箱にぶつかる。そうだ、公子の誕生日。


「まずは公子様のお誕生日をお祝い申し上げます。ささやかな物ですが、お納めください」

「まあ……」


 贈り物を渡すと夫人は僅かに目を見張った。どうも息子の誕生日を祝われるのは予想外だったらしい。しかしすぐに表情を戻すと、持っていた扇を左の手のひらに打ちつける。

 パシン、という微かな音が耳に届くや否や、応接室の扉が開き、ラファエロを出迎えた家令が銀盆を小脇に姿を現した。


「お呼びでしょうか、奥様」

「トリステラ卿からガブリエーレへの贈り物だそうよ。後であの子に渡してあげて」

「承知いたしました」


 家令は一礼すると、盆に小箱を載せ退出した。一連の流れを、ラファエロは呆気にとられて眺めていた。

 部屋の外にいたのになぜ扇を打ち鳴らす音が聞こえたのか? そもそも扇を打ち鳴らすのが使用人を呼ぶ合図なのか? 部屋にいなかったのになぜ銀盆を持ってきたのか? どこかで使用人が話を聞いており予め連絡でもしていたのか? そもそもこの広い家のどこにもあの家令以外の使用人が見当たらないが一体どこに待機しているのか? そういえばこの麦コーヒーも応接室に通された時には既に用意されていたな!


(なるほど、侯爵の言っていた「息が詰まる」とはこういうことか)


――あの家は人の気配がない。使用人は無数にいるのに必要最低限の姿を見せない。その癖こちらが入用な物は図ったようにタイミング良く持ってくる。始終見えない何かに見張られているようで息が詰まる。


 いつぞやに聞いたドナートの愚痴を思い出し、ラファエロは納得した。爵位や地位が高いほど使用人の教育は行き届く。中でもアルディーティ侯爵家の教育は厳しいようで、使用人が姿を見せないことが美徳とされているらしかった。

 侯爵自身は入り婿で、ラファエロと同じく伯爵位の出身と聞いている。恐らく彼の家ではここまで使用人に対して徹底的な教育をしていなかったのだろう。侯爵が屋敷に寄り付かないのはこの環境も一因かもしれない。


「ご丁寧にありがとうございます」


 赤い髪が優雅に流れるような動きに、ラファエロは再び現実へ引き戻された。夫人が贈り物の礼を述べていた。


「トリステラ卿からの贈り物と聞けば、あの子もさぞ喜ぶことでしょう。あの子は卿のことを心から尊敬しており――」


 あ、と何かに気づいたように夫人が口を噤んだ。何かに動揺したように僅かに視線が忙しなく動いたが、それも束の間のこと、侯爵夫人はすぐ完璧な淑女の仮面を被り直した。


(……ん?)


 お陰でラファエロは違和感の正体を明かせぬまま、喉に魚の小骨が引っかかったような気持ちの悪さだけを受け取るはめになってしまった。


「大変失礼致しました。それで、本日はどのようなご用件でしょうか? 夫ではなく、私宛の御用と伺っておりますが」

「ああ……」


 追及するわけにもいかないので、大人しく話の流れに乗っておく。


「実は夫人宛てに、母から招待状を預かっておりまして」

「招待状、ですか?」

「ええ。今年は母が大聖女に就任して四十年目の節目ですがら、社交期間中に祝賀会を開くことになったんです。大変失礼ながら、一週間後に夜会を開く予定でして……このような日程の迫った招待状をお届けするのは忍びないのですが、母がどうしてもアルディーティ夫人から祝ってほしいと申しており、私も立場上母には強く出られないものですから、ご無礼を承知でこのようにお届けに伺った次第です。どうぞここは目を瞑ってご参加頂けないでしょうか?」

「一週間後ですか……」


 本命の書簡を受け取った夫人は困惑げに眉尻を下げた。口角は笑みの形を保ったままなので、本来ならその表情から彼女の本音は一切伺えないのだろう。しかし残念ながらラファエロには、彼女が「どういう理由をつけて断れば最も角が立たないか」と思案しているのが手に取るように理解できた。

 かつて「目は心の窓」と謳った詩人がいたが、その詩人ももしかしたら何らかの神の寵愛を受けていた可能性がある。


「つかぬことを伺いますが、もしかしてこの招待状は夫宛てにも送られておりませんか?」

「侯爵はよく大聖堂へいらっしゃいますから、今回の夜会につきましても招待状をお送りしております」

「それではやはり、私が伺うのは難しいようです。夫はこのような社交の場には、いつも別の女性を連れて参加いたしますから」

「別の女性、ですか?」

「ええ。あの人には結婚直後からお付き合いなさっている女性がいらっしゃるようです。夜会にはいつもその方とご一緒されますから、私が参加するのは嫌がるかと」

「……」


 ラファエロの中で、ゴシップ記事の信憑性が俄かに増した瞬間だった。

「面白い」「続きが気になる」と思ってくださった方は、★評価・ブクマ等頂けますと幸いです。

執筆の励みになります。

次回更新は本日の昼ごろの予定です。

よろしくお願いいたします。

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