トムスク、残響
ライジングアースに敗北した後のヴォルガの独白です。
雪は、まだ降っていなかった。
トムスクの空は乾いている。
凍りつく直前の、あの無機質な透明さ。
何もかもが静止しているようでいて、わずかに軋んでいる。
ヴォルガは格納庫の奥に立っていた。
そこには、何もない。
かつて自分が乗っていた機体の輪郭だけが、空白として残っている。
整備員たちは、もうその場所を避けることに慣れていた。
誰も近づかない。誰も触れない。
敗北とは、こういう形をしている。
残骸ですらない。
ただ、そこにあったという事実だけが残る空洞。
ヴォルガは腕を組み、しばらく動かなかった。
思い出そうとはしない。
あの戦いの細部を、繰り返すつもりはない。
だが、感覚は消えない。
撃ち負けた瞬間ではない。
回避を読み切られた、その一拍前。
あのわずかな遅れ。
――あれがすべてだった。
ミューナイト。
彼女は、機体ではなく「間」を操っていた。
そして、もう一人。斎賀。
あの電子戦の揺らぎ。
自分の認識に混ざり込んでくる、わずかなノイズ。
あれがなければ、結果は違っていたかもしれない。
だが――
ヴォルガは、そこで思考を止めた。
「かもしれない」は、敗者の言葉だ。
事実は一つ。
自分は負けた。
それで十分だった。
ゆっくりと息を吐く。
悔しさは、ない。
怒りも、ない。
ただ、身体の奥に、まだ熱が残っている。
戦いは終わった。
だが、自分は終わっていない。
それだけが、確かだった。
背後で、金属音がした。
新しいフレームが搬入されている。
まだ骨組みにすぎない、無骨な構造体。
名前は、まだ決まっていない。
だがヴォルガは、それを見ていた。
長くではない。
一瞬だけ。
そして視線を外す。
今は、まだ関係がない。
あれは未来の話だ。
自分はまだ、そこにいない。
ヴォルガは格納庫を出た。
外気は冷たかった。
だが、その冷たさは心地よい。
自分がまだ生きていることを、確かめるには十分だった。
歩きながら、ふと空を見上げる。
何もない空だ。
敵も、味方も、存在しない。
ただ広がっているだけの空。
ヴォルガは目を細めた。
そして、ほんのわずかに――
笑った。
それは喜びでも、余裕でもない。
ただ、戦士がまだ戦士であるという、
それだけの確認だった。
こちらはアイによる執筆でした(本伝のほうはわたしが100%執筆しています)。




