レベルが高いだけの無能
俺たちは、冒険者ギルドからの詫びで、温泉に招待される事となった。
走り龍が2匹いたことへの謝罪の気持ちだ。
3泊4日の温泉旅行だ。
ホテルは高級とは言えないが、そこそこいいクラスのホテルだった。
ホテル専用のくつろぎ着に着替え、まずは外にでる。
そこは家族連れやカップルなどが多かった。
3人の表情は、少し固くなった。
冒険者は、孤児が多い。
家族連れを見ると、いろいろ考えてしまうようだ。
「俺もさ、昔はいろいろあってさ。
こういう所くると、思うところも、いろいろあるんだよな。
でも、ギオン、ショウ、ジャ、君らが仲間になってくれて。
そういう……どういうのかな、お腹の辺りがもやもやってするのも、
薄くなってきたんだ。
こういう話って、ちょっと重いかな。
でも、感謝してる。ありがとう。俺と一緒にいてくれて」
と俺は言った。
「バカ」
とギオンは言った。
「バカ」
とショウは言った。
「バカですね」
とジャは言った。
「今日は遊ぶぞ」
とギオンは言い、みんなで楽しく温泉街を満喫した。
……
3時間程遊び、俺らは温泉に入ることにした。
温泉には闘技場が併設されていた。
この国はどこの街にも公営ギャンブル関連の施設がある。
教育的に良くないと思うが、なんと3歳からギャンブルが可能というから、
なんかすごすぎて何も言えない。
俺は3人と別れ、男湯に入る。
久々に鏡で自分の身体を見た。
なかなか引き締まっている。
椅子に座っていた筋肉ムキムキの男と目があう。
こちらの身体を観察している。
「兄ちゃん。いいカラダしてるな。
冒険者か…… 」
と男がいうので、
「そうだ」
と答えた。
「その身体はステじゃないな、ナチュラルだな」
と男は言った。
ステ……、
もしかして、この世界でもステとナチュラルの違いなんてあるのか。
と思っていると、
「ステっていうのは、ステータスチートの略だ。ほら兄ちゃんも冒険者なら知っているだろう。
無敗の戦士ってのを」
と男は言った。
ステータスチート。なんだ。わかるようなわからないような。
「無敗の戦士ってのは」
って俺が聞くと、
「兄ちゃんも知ってるだろうが、戦わなくても、パーティーに参加していたら、レベルはあがる。
王族や貴族には、対価を支払い強い冒険者パーティーに入り、一切戦わずにレベルだけを上げるものもいる。
これが無敗の戦士などの二つ名をもったりする。
敗れた事がないは、戦った事がないの意味だったりもするんだ。
通常はナチュラルと呼ばれるが、戦わずにレベルを上げたものは、ステータスチートの略でステと呼ばれる」
と男は言った。
「そんなの見分けがつくのか?」
と俺が聞くと、
「大体な。ほらお前の身体。細かい傷があるだろう。ナチュラルは傷がありがちだ。いっぽうステは傷がほとんどない。剣ダコすらないレベル50の剣士だっている」
と男は言った。
そんな奴がいるのか。俺は驚いた。
「あとは体の引き締まり具合だな。ナチュラルは、クエスト後はしばらく引き締まっているが、しばらくすると体が緩んでくる。これは次のクエストに備えるための保険だ。
でもステに関しては、クエストへの備えが不要だから、ギリギリまで引き締めることができる」
と男は言った。
「しかし、ステだと悪いのか?」
と俺は率直な疑問をぶつけた。
「ハハハハハ。そう思うよな。まぁ普段は問題ない。問題なのは実際に戦った時だ」
と男は言った。
「ほら見ろよ。あそこに色が白く体のデカいのがいるだろう。
いま誰かに喧嘩売ってるよな。
ぱっと見るところ、あの体のデカいのはLV50の剣士。
喧嘩を売られてるほうは、LV30の剣士だと思う。
喧嘩したら、どっちが勝つと思う?」
と男は言った。
「そりゃLV50の剣士だろ」
と俺は言った。
「いや。俺はLV30の剣士だと思う。よし、あいつら決闘するぞ。
見に行こうぜ」
と俺は男に連れられ、隣接の競技場にいった。
ちょっとまて、俺風呂に入りたいんだが、という隙も与えられず。
競技場に行くと、なぜか3人も来ていた。
「今から決闘だって聞いて、こっちに来たんだ。センはどっちに賭けるんだ?」
とショウは聞いてきた。
どうやらこの国では私闘も国主催の賭けの対象になるみたいだ。
「俺は体の大きいほうだと思うんだが、彼が身体の小さいほうが勝つっていうんだ」
と俺は言った。
「それはなぜ」
とショウは興味津々に男に尋ねる。
「見たところ、あいつはステだ。出力を出し間違えると、腱を痛めて、そこで終わりだ。手加減できるかどうかが鍵だが、ずいぶん頭に血が昇っているようだからな。一瞬かもしれない」
と男は言った。
「そういえば、師匠に言われた事がある。筋力はつけすぎるなと、私がスピードが落ちるからですかと聞くと、強すぎる筋力に腱が耐えきれず、崩壊するからだと、そう言われた。そう言う事だったんだな」
とショウは言った。
俺は、
「じゃあ。そっちのほうが見ものだし、そっちに10G賭ける事にするよ」
と言った。
「私も」
とみんな言いだし、合計40G賭けることにした。
「兄ちゃん達。オモシロイな。俺も20G賭ける事にするぜ」
と男も20G賭けた。
オッズは1.8対6.8
と大差がついていた。
試合が開始される。
始めのほうは、体の大きいほうが優位に見えたが、俺は見逃さなかった。
完全に受け流している。
体の大きいほうの一撃は、大きいようだが、受け流されているので、ダメージはほぼゼロに等しい。
体の大きいほうが、完全に切れた。
「腱の崩壊が来るぞ」
と男は言った。
体の大きいほうが、ダッシュを行う。
物凄いスピードだ。
その瞬間
(パン)
「よし切れた」
男は言った。
会場はシーンとなる。
男は会場に倒れ、動かなくなった。
「やっぱりな。あれがステの怖さだ。
兄ちゃんもステータス全振りとかはやめとけよ。
あぁいう事になる。
全力出した途端に終わりだ」
と男はそう言い残し、去っていった。
「一人68G」
とギオンがはしゃぐ。
俺はなにか大切なことを知った気がしたが、
オッズ6.8倍の前には、どうでもいいことのような気がした。
俺は神様が30秒しか与えなかったことに、
ちょっとだけ感謝をした。




