ギオン
こちらの世界に転生してから1週間がたった。
生活にもなれ、クエストも順調にこなせるようになった。
冒険者ギルドで、なんか声が聞こえる。
「だから、その女はやめとけよ。臆病ヒーラー、仲間を見捨てるヒーラーなんだから」
と冒険者らしき男が、他の冒険者パーティに絡んでいる。
「ごめん。そういうことなら、私達のパーティには必要ない」
そう、その他の冒険者パーティは去っていった。
冷たい視線が彼女を突き刺していた。
俺は、モヒカン頭の冒険者ギルドの受付嬢に話しを聞く。
「えっモヒカン……、あっカッコいいね。その頭。何で立ててるの?」
思わず聞いてしまった。
「エイダイスプレーっていうのがあって、それを毎日1本使ってる」
と教えてくれた。
「あと、あの女の子、なにかやらかしたの?」
と俺が聞くと、
「あの子、ヒーラーとしては、優秀でレベルも高いのだけど、臆病で、前のパーティが戦っている時に逃げちゃって、それでそのパーティが全滅したんだよね。それから不幸を呼ぶヒーラーだって噂になって」
と耳打ちしてくれた。
「それより、君も髪の毛立てるなら。エイダイスプレー1本あげるわよ」
と言われた。
「またの機会に」
と断り、俺はクエストにでかけることにした。
今日は古代の寺院跡の調査だ。
なにか魔物のような声が聞こえるらしい。
寺院跡に行くと確かに声が聞こえる。
「あんちくしょう。なにいってんだ。ふざけるなよ。あたまわいてんのか。くそやろう。はぁ。なんだあいつ。えらそうに。おれさまのじゃまばかりしやがって」
これ……、魔物じゃなくって、人間じゃね?
俺は盾で顔を隠しつつ、寺院の奥まで進む。
すると、一人の少女が部屋の壁に向かった、罵倒を続けている。
壁になにかいるのか?
俺は遠目に、そっと顔を覗き込む。
あれさっきのヒーラー。
「あの……、お取込み中申し訳ないのですが」
と俺は声をかける。
「はぁ誰だお前は」
と彼女が振り向いた瞬間。
彼女は冷静に戻ったみたいで、小動物のように怯えだした。
「えぇっ。誰ですか?あなたは……。センサー働かなかったですぅ」
と彼女は言う。
「えっと、ここで魔物のような声が聞こえるって聞いてここに来たんだけど、君しかいないよね」
と俺は聞いた。
彼女は目線を落としたまま、
うなづいた。
「あの……、
俺ソロなんだけど、
よければ、俺と組まない?」
と俺は尋ねた。
「私の事……、
知らないのですか?
不幸を呼ぶヒーラー、
臆病ヒーラー、
仲間を見捨てるヒーラー」
彼女は伏し目がちに言った。
「うん。聞いたよ。
別にそれでいいよ。
俺がピンチになったら、君は逃げても良い。
俺が倒れたら、君を守れないから」
俺はそう答えた。
「何言ってるんですか?
あなたおかしいんじゃないですか?
見捨てて良いなんて」
と彼女は言った。
「だって君はヒーラーだもん。
戦闘要員じゃないんだから」
と俺は言った。
彼女はヒザから崩れ落ちた。
その翡翠のように美しい瞳から、溢れんばかりの涙がこぼれた。
そうして彼女は1時間ほど、声を出して泣き、溜まっていた感情と共に、負のエネルギーも吐き出した。
俺は尋ねた。
嫌だったら言わなくて良いからと、前置きした上でその時の事を。
仲間として、知っておきたかったのだ。
彼女によると、どうも彼女は、危険察知能力が異常に高い体質のようだ。
悪くいうと臆病。
よく言うと高感度センサーのようなものだ。
以前のパーティーで危険を伝えたところバカにされ、受け入れてもらえなかった。
その後パーティーは彼女を残し全滅。
彼女も、救おうとはしたが、無理で命からがら逃げる。
それ以降、まず自分の安全確保を優先する事にして、今の評判になったらしい。
彼女のステータスを見せてもらったがレベルは30もあった。
俺は自己紹介をし、彼女の名前も聞いた。
ギオンと言っていた。
キレイな名前だった。
俺達はパーティーを組んだ。
ギオンの危機センサーがどういう状況で働いているのかはわからない。
ただ、ギオンの危機センサーは索敵センサーとして使える事がわかった。
クエスト中ギオンの危機センサーに引っかかると、俺はスリングを用意して、周りを警戒する。
すると遠くに敵を見つける事ができる。
遠くから、スリングで敵を無力化し、近づいて、杭やナイフでとどめをさす。
それが、俺達の戦い方になった。
……
それから、
俺達パーティーは、
何件かクエストをクリアして、
その報告と、
新しい依頼を受けるために、
冒険者ギルドに足を運んだ。
前に見た感じの悪い冒険者がいた。
「おやおや。これは戦わずのヒーラー様。今日も仲間に守ってもらったのかな」
案の定絡んできた。
テンプレだな。
「なんだお前は」
と俺は言った。
「新参冒険者だろ。こんなクソヒーラー連れてるんだから。こいつは性格悪いぞ。なんたって、仲間を見捨てて、一人だけで逃げてきたんだからなぁ。お前も気を付けろよ」
感じの悪い冒険者は言った。
「そうか。しかし、俺にはお前のほうが性格悪く見えるぞ。わざわざそんな悪口を言って回るんだからな」
と俺は言った。
周りでくすくす笑い声がするのが聞こえる。
あぁコイツは、嫌われているのかもしれない。
「なにを。俺はわざわざ教えてやってるんだぞ」
と絡んでくる。
あぁワンパターンだな。
「なんだって、お前に誰が頼んだ?勝手に俺のカワイイ相棒の悪口言いやがって」
と俺は言った。
ギオンは少し恥ずかしがっているようだ。
よし、これはポイントあがったかもな。
「ははん。お前はこいつの色仕掛けにやられたな。めでたい奴だ」
と言ってきた。
「たしかにな、こいつはカワイイ。小動物みたいに臆病だ。
敵が来たとみたら、すぐに消える。だけどな。それがどうした?」
と俺はハッキリと言ってやった。
「はぁ?そんなもん、戦力外だろうが」
と呆れたような顔して、言ってきた。
「お前な。ヒーラーに求めすぎだ。ヒーラーは癒しさえあればいい。なぜヒーラーが命をかけて戦う。俺らがヒーラーを守る。そしてヒーラーに癒される。それが正当な関係だろが。お前よっぽど弱いんだな。こんな小動物みたいにカワイイヒーラーに、戦う事を求めるなんて」
と俺は少し挑発してやった。
「なぁなに?勝負してやろうか。今すぐ決闘だ」
と頭に血がのぼったのか、側までやってきた。
そいつの仲間を見ると、呆れた顔をしている。
「はぁ。ほんと、弱い犬ほどよく吠えるっていうが、お前のことだな。お前なんかと戦わねぇよ。そんなお前でも、慕ってくれる仲間がいるんだから」
と俺は言った。
男は仲間の顔を見る。
男は仲間達に肩を叩かれ、冒険者ギルドを出ていった。
一分後、冒険者ギルドは笑い声で溢れた。




