転生
「おい、聞こえるか。おい、君。おい、聞こえるか。おい」
「……うん。ここは… あなたは……」
そこにはただ暗闇の中に光の粒子があった。まばゆく、そしてどこか懐かしい。
「私かい? 私は神様だよ。うっかりとはいえ、ずいぶん不本意な死に方だったようだね」
辺りを見渡しても一面の闇。静寂の中にただ光の粒子と、神様の声が響く。
「それで…ま…突然なんだけど…君は死んだんだよ」
なにを言っているのかわからない。
俺は、思い出した。
「もっとまともな死がよかった」
俺はそう言った。
「君はよく世間を理解していないね。
不慮の事故というのが、あるだろう。
君の死は、カテゴリー的には、それに分類される。
例えば、朝学校に遅刻しそうになり、食パンを食わえたまま、外に飛びだし、曲がり角で、人とぶつかり、転倒して頭を打って、恋が始まるわけでもなく。
そのまま亡くなったとしても、不慮の事故だ。
どんなに、ドラマチックであっても、どんなに突っ込みようがあっても五文字で集約される。不慮の事故として」
神さまはそう言った。
俺は言葉を失った。
世の中には、伝えられている事より、省略されていることのほうが多いのだと、この時、はじめて知った。
「君は隣町の知らない爺さんの最後なんて詳しく知りたいかい?」
神さまにそう聞かれて、黙り込むしかなかった。
そうか……だから不慮の事故。
俺の人生最後の死に様も不慮の事故で済まされるのか。
そこには、一抹の寂しさと、わびしさがあった。
「この感覚がわびとさびなんですかね」
と俺が聞くと、
「知らないよ。そんなもの」
と神さまは言った。
「あの……家族はどうなりましたか」
と俺が聞くと、
「これは異例なんだけどね……」
神さまはパチンと音を鳴らした。
目の前に浮かんだのは、泣き崩れる姉と、壊れたミニカーを握りしめたまま動かない甥だった。
俺の胸が冷たくなる。
――俺の死は、異世界行きの切符なんかじゃなく、あの二人に新しい地獄を渡したんだ。 と神さまは言った。
頭の中を『絶望的な感触』が浸食する。
別に俺が悪いわけではない、
ただの事故だ。ただの事故だ。と何度も言った。
女難、事故というキーワードが頭をよぎった。
もしあの時、同級生の女の子に声をかけていれば、こんな目に合わなかったのか?
そうも思った。
「それで…いいかな?」
と神さまは言った。
「はい…どうぞ」
「で…君は転生するんだけど」
そうか……。
これがラノベでいう転生イベントか。
「えーっと俺は……ずっとモブキャラだったので、今度は勇者的なキャラがいいです」
と希望を伝えた。
「いや。。。あのね…申し訳ないけど、それは上級の神様にしかムリなんだよね」
そう言われた。
「はぁ…」
俺は落胆した。なくなって、転生イベントになると、もれなく、チート能力や、ハーレム展開になると思っていた。なに上級の神様しかムリとか、なにそれ。
「でね。君は……。転生後冒険者になり、魔王討伐してもらう」
と神さまは言った。
「それは勇者の仕事じゃないですか。ってことは、やっぱり勇者なんですか?」
と俺は聞いた。
「いや。違うんだけどね。まぁいいや。はいはい。勇者ってことにしとくよ」
と神さまは言った。
……え?
めっちゃめんどくさがられてる?
「あと君に加護があるわ。
昔、おばあちゃんに親切に道を教えたから、
・道に迷わない加護。
昔、ヤンキーのお使いをしてあげたから、
・たまにヤンキーが助けてくれる加護。
あと、よくわからないけど、難女の加護
・これは効果がよくわからないわ。
あとは、私が転生させたから、裏切れないように、
・強制の加護 魔族の誘惑を退け、神のミッションを実行する。
これだけね」
と神さまは言った。
なに?最後のなんか、加護じゃなくね?あと女難じゃなくって、難女って何よ。
怖すぎるけど。
「あと、最後にステータス振り分け。ステ振りしだいで、冒険のしやすさが決まるから、慎重に素早く決めてね」
すると、俺の目の前に、ステータス画面と、ポイントが出てきた。
「あれ58ポイント……、
俺の貯金額に似てるな」
とつぶやくと、
「そうだよ。
死ぬ間際の貯金額で、ステータスが決まる。
1ポイント1万円」
と神さまに言われた。
なにその超現実的な仕様。
いや……。
そんなことを言っている場合じゃない。
冷静にポイントを割り振らないと。
こういうのは、スピード全振りとか、防御全振りとか、そういう感じでキャラ立ちさせて、ゲームメイクをするのがいいって、前に聞いた。
ゲームの世界に転生した場合は、だいたいそれで攻略しているものな。
えっなににする?戦士系、魔術系、それともシーフとか。
うーん迷う。
(ポン。30秒のステータス振り分け時間が終了しました。設定がなされなかったので、ステータスを平均的に割り振り、標準的なキャラクターメイクをします)
というアナウンスが流れる。
「ほらだから。早くしなよって言ったのに……」
と神さまは言った。
「っで前任が孤児の冒険者だったんで、その人を依り代に転生するから…じゃあね」
とそれだけ言って光は消えた。
……
気が付くと、俺は知らない街の路地裏に横たわっていた。
雰囲気からして、中世ヨーロッパっぽい。どうやら転生は本当にしたらしい。
ズキン……
頭が痛い。記憶が、流れ込んでくる。
これは依り代だったセンという人物の記憶だ。
あまりにも気持ち悪くて、何度も吐いた。
自分の中に他人の記憶が入ってくる――これは、二日酔いの5倍は不快だった。
どうやら俺の依り代センは戦争孤児で、孤児院に入り、その後15歳で冒険者になったらしい、現在は18歳。どうも貴族の荷馬車にぶつかり、意識を失っていたので、ここに捨てられたようだ。
とんでもない所に転生してしまったのかもしれない。
俺は嫌な予感しかしなかった。




