搾取される冒険者
3人が部屋でいろんなものをスライムに食べさせる展開になり、さすがに恥ずかしくなり、
「ちょっと酒飲んでくるわ」
と出てきた。
いつも泊まっている宿の3軒隣には、大衆向けの飲み屋がある。
ロンドンの古ぼけたパブのような雰囲気で、飲み物はエールと、ゴブリンキラーと呼ばれる米系の酒の二種類。
つまみはナッツと白身魚のフライとポテトチップス。
なんか……いろいろと突っ込みようのある組み合わせだが、異世界なので、スルーしておこう。
俺はマスターにゴブリンキラーとナッツを注文する。
ゴブリンキラーの味は淡麗辛口の清酒そのものだった。
ちなみに、酒は15歳で飲めるようになり、酒税はかからないそうだ。
昔の大戦中一度酒税が徴収されたが、大戦が終わるとすぐに撤廃された。
酒税がかからないので、いろんな家で自家製の酒を作っている。
俺がカウンターで飲んでいると、ベレー帽のような帽子をかぶった髭ズラの男が話かけてきた。
「おや。兄ちゃんは冒険者か」
男はそう言った。
しかし酒くさい。
あと酒に混じって、クレオソートのニオイがする。
下痢止めに使われる薬品だ。
下痢でもしてるのだろう。
「そうだ。なんかようか」
と俺は尋ねた。
見た事のない顔だ。
「兄ちゃんは、この世界に不満を持ってる。
どうだ当たりだろう」
俺はしばらく考えた。
不満があるように見えるのだろうか。
あんなに可愛い仲間に囲まれ。
不満なんかないと思うが、
しいて言うなら、こいつに絡まれているからかもしれんな。
「しいていうなら、あんたに絡まれているくらいだろうな」
と言った。
男は笑いだした。
「こいつは、はっさくだ」
こいつ今はっさくって言わなかったか?
「マスター。彼にフィッシュアンドチップスをだしてやってくれ。俺からの奢りだ」
と男は言った。
マスターが白身魚とポテトチップスをもってくる。
いや……。
フィッシュアンドチップスのポテトは、フレンチフライの方だろ。
そう突っ込みたかったが、ここは異世界だ。
イギリスではない。
やめておいた。
男は俺の目の前にフィッシュアンドチップスをボリボリ食いながら、
「ここだけの話。
魔族の配下が元冒険者が多数って話だ」
そう男は言った。
「あぁそうみたいだな」
俺がそういうと、
「なんだ。知ってたのか。
じゃあなんで魔王軍につくか知ってるか」
と男は言った。
「さぁな」
と俺は言った。
なんで俺はこんな髭ズラのおっさんと会話してるんだ。
しまった。
あのまま部屋に入ればよかった。
「実はな。魔王軍はタックスフリーなんだ。タックスヘイヴンって奴さ。どうだ魅力的だろう」
と髭ズラの男は言った。
「はぁ……、
タックスフリー、
どうやって国を運営するんだ」
と俺は言った。
「魔王軍は、魔石の採掘と独占だけを行っている。
それで国を運営しているんだ。
魔石がなくとも生活はできるが、あれば便利なので、みな購入し、それで国を維持している。
108将がおり、戦の度に傭兵として、魔物を召集する。
それ以外のインフラはなく。
無政府状態だが、度がすぎると108将が出張るため、治安は意外とよい。
法はないに等しいが、やり過ぎるなという暗黙のルールがある。
魔石は奪ったらダメというルールもないが、殺してもダメというルールもないため、魔石を奪ったものは、容赦なく殺される。
ちなみに魔王軍は侵略するつもりもないが、無政府状態なので、魔物たちが勝手に隣国に略奪に向かう」
髭ズラの男はそう言った。
産油国みたいな感じなのか。
しかしインフラとか、治安に回さないのだったら、それが国って言えるのか。
結局、暴力で抑え込んでるだけじゃねぇのか。
「強い奴には、多少いい国だろうが、弱い奴には住みにくい国だろうな」
と俺は言った。
そんな国にあいつらを連れていくわけにはいかない。
俺も興味ないしな。
「冒険者はいいように使われ搾取される使い捨ての道具だぞ」
と髭ズラの男は言った。
「そんなもの考え方しだいだろ。
資本主義はたしかに問題もある。
でもな無政府状態で弱いものいじめが横行する国は、好きにはなれない」
と俺は言った。
「冒険者の8割が孤児、もしくは流れ者だ。
孤児は15歳で孤児院を追放される。
これはどうだ。
搾取じゃないか」
と髭ズラの男は言った。
「魔王軍だったら、孤児院にすら入れないだろう」
と俺は言った。
こいつは、この国は搾取するから、魔王軍に行けとでも言いたけだな。
なんか怪しいな。なにかのスカウトかもしれない。
聞いたことがある。若者をそそのかして、怪しげな商売に巻き込む輩の話を。
男はイライラしながら、フィッシュアンドチップスを貪り食う。
オイオイ。
俺に奢ったんじゃねぇのか。
「つまり、王国は表面的には、魔族に苦しまされてはいるが、魔族を利用し、政権を安定させ、魔族討伐クエストという一大イベントを利用し、ギャンブルで税金を徴収するという仕組みを作り上げている。
賢い冒険者は、この構造に気が付き、魔族につくものも多いんだ」
と髭ズラの男はドヤ顔で言った。
いやいや……、
そんな野党が与党を叩くような論理で言われてもなぁ。
まったく響かない。
なんだ。これは自分の言葉なのか。
まぁいい……、
こんなオッサンには興味がない。
「外圧を利用して、政権への不満をそらすなんて、定番だろ。
それに魔族討伐イベントの賭けの事だろ。
ほっておいても、闇で賭けは始まる。
まだ国がやってるほうがマシだろ」
と俺は言った。
髭ズラの男は俺を睨みつけながら、さらにフィッシュアンドチップスを食った。
しかも1人で食いつくした。
「生意気な小僧め。フィッシュアンドチップスを奢るのはもうやめだ。
マスター、このフィッシュアンドチップスの料金はこいつにつけろ」
と髭ズラの男は言った。
あぁついに、逆切れで逃げるパターンか……。
超面倒。
マスターは俺ににこっと笑い。
髭ズラの男にチョークスリーパーを決める。
髭ズラの男は苦しがってタップするとマスターはチョークスリーパーを外す。
「お客様が全部フィッシュアンドチップスを食べたの私見ていたんですよね。
はい今日は3G」
とマスターは笑顔で請求する。
「ぼったくりじゃないか」
と髭ズラの男は抗議する。
「お客様が飲んだお酒とフィッシュアンドチップスが1G。
今うちにいるお客様全員に不愉快な気持ちをさせたから、全員分の酒代という事で2G。
なにか文句ある。
それとも、あなたがここで魔王軍への勧誘をしていたって国に伝えるほうがいいかな」
とマスターが言うと、
髭ズラの男は、3Gをカウンターに置いてバーから出ていった。
マスターは客全員に謝罪し
「ここまでのお酒は、先ほどの髭ズラの紳士がお詫びという事で、お勘定を頂いております」
と言った。
店中が笑い声で包まれ、マスターへの拍手が起こった。
マスターは
「さっきのカッコよかったですよ」
と褒めてくれた。
(カランコロン)
と店の扉が開く。
3人がやってきた。
なんかツヤツヤになってて、ドキッとした。
「私達も飲みにきたよ」
とギオンが言った。
マスターが肘で俺をつつく、
「こんなに可愛い仲間がいたら、魔王軍なんて、興味がなくって当然ですね」
と言った。
俺は少し照れくさくなった。
それから、俺達はのんびりと酒を飲んだ。




