カジカとココ (未完)
これは特殊書籍の8冊目です。
神は最大にして最強の古代龍ゴルドランがおのれの力をほしいままにして驕り高ぶる様を見て、そのものに天敵を与えた。
それは、最弱の魔物スライムの中でも、最小にして最弱の短命種、ビーズ・スライムだった。
何億個ものすべてのビーズスライムを集めて、一つの巨大な神獣を創りたもうた。
その名を……スフィアという。
神獣スフィアは古代龍ゴルドランの前に立ち塞がり、世紀の大決戦が始まった。
結果、両者とも力を使い果たし、長い眠りについたため、神はそれぞれを封印したのだ。
以来……(後略)
ーー古代神話よりーー
犬人族の少女ココは両親を失い、村のおばばの手伝いをして暮らしていた。
おばばは**「渡り薬師」**で、諸国を旅しながら商売をしていたが、この村に来たとき、体を壊して以来、ここに定住するようになったのだ。
自分も村の世話になったので、親なし子のココを引き取って一緒に暮らすようになった。
ココは鼻が利くので、薬草を種類ごとに嗅ぎ分けることができ、薬草採取に関しては優秀な助手だった。
ある日、いつものように薬草採取のため村の近くの森に入ったが、3頭のフォレストウルフに襲われた。
ココも1頭くらいなら追い払うだけの力があったが、3頭相手には苦戦し、あわや食い殺される寸前まで追い詰められた。
そのとき大きな地震が起きて、山鳴りがし大地が割れた。
フォレストウルフたちは驚いて逃げ去り、後には血だらけのココが瀕死の状態で取り残された。
そのとき、目の前の崖の岩壁が崩れて、洞窟が出現した。
ココが洞窟の入り口で力尽きて倒れていると、洞窟の奥から球形のぼんやりした光が出てきた。
その光はココの体を包み込むと、空中に持ち上げて洞窟の中に運んでいった。
洞窟の一番奥にあったのは、巨大な球体。
その前にココの体は横たえられ、球体から眩しい白い光が放たれた。
ココは光に包まれ、一段と輝いたかと思えば、やがて光は収まった。
ココが目を覚まして自分の体を見ると、あれだけひどかった傷跡がすっかり治っている。
治してくれたのは目の前の大きな存在だと知ると、ココは球体に向かって感謝した。
「命を助けてくださってありがとうございます。あなた様はなんという方ですか?」
すると、巨大な球体はココの問いかけに直接返事をした。
『我ハ最小ニシテ最弱ノモノガナリアガリシ者。
ソシテ最強タル悪龍ヲ滅サンガ為ニ、ソレヲ超エル強サヲ身ニツケシ者。
ソノ名ヲスフィア、神獣スフィアト人ハ呼ブ』
以来、ココは毎日のようにこの洞窟に通い、お供え物をして拝んだ。
「スフィア神さま、どうかあたしたちの村がいつまでも平和で豊かでありますように、お守り下さい」
だが、ある日スフィア神がココにあることを告げた。
『犬人族ノ娘ココヨ。ワレト共ニイニシエノ時ニ封印サレシ悪龍ゴルドランガ目覚メ、周囲ノ村々ヲ壊シナガラコチラヘ向カッテイル。村人タチト共ニ、ココヨリ去リ、ホトボリガ冷メルマデ身ヲ隠スガイイ』
村人たちと共に避難したココは、最強のモンスターが戦う物音を遠くから聞いた。
そして恐らく悪龍ゴルドランのものと思える炎のブレスの光が空を照らすのを見た。
すべてが終わったと思ったときに、その現場を訪れると、そこにあったのは……焼け焦げたゴルドランの死体と、地面に無数に散らばる細かい透明な玉だった。
現場を目撃したという他の村の者が、その場で起きたことを教えてくれた。
神獣スフィアはゴルドランが他の村々を襲おうとするのを防いで守ろうとするあまり、初手を相手に譲ってしまった。
ゴルドランの攻撃は物理でもブレスでも強力だ。
スフィアはボロボロになったが、その後、ゴルドランのブレスをすべて吸収して、それをそのまま相手にお返しをしたという。
そして弱っている龍の頭部を球状のもので覆い、その中に炎を送って焼き殺した。
しかし、ゴルドランが倒れて間もなく、スフィアも力尽きて全身が細かい粒になって崩れてしまった。
その粒の一粒一粒は直径数ミリの魚卵のようなもので、ビーズスライムという現代には存在しない魔物だった。
そしてその生命力は尽き始めていて、そのほとんどが萎んで乾燥していた。
だが、ココは何かに引き付けられるように、ある場所に向かって真っすぐ進んでいた。
「何かがあたしを呼んでいる」
そう呟くと、ココはスフィアの残骸の散らばった一角で立ち止まった。
そこには干からびた固まりの奥で青白く光るものがあり、手探りでその正体を探していくと、1個の輝く小さな粒を見つけた。
それを掌に載せてココは見つめた。
するとその粒は光が薄れて、ただの透明な小さな粒になった。
「いけない。死んでしまう。助けなきゃ」
ココはおばばのところに走って行った。
「この子が死にかけている。ポーション使っても良い、おばば?」
「ほう……これがお前の命の恩人の忘れ形見か。良いとも、恩は返さなきゃね」
「おばば、カジカって魚知っている?」
「ふーん、聞いたことがないね。儂は海辺の街にも行ったことがあるし、大抵の魚の名前は知っているが、そんな名前の魚は聞いたことがないよ。どこでそんな名前を聞いたんだい?」
「分からない……でも、なぜか知ってるの。その魚の卵が透き通っていて、ちょうどこのスフィア様の……一部に似ているの」
「一部じゃ困るだろう。名前で呼んであげないと。それもスライムの一種なんだろう?」
「じゃあ……カジカって名前にする。よろしくね、カジカさん」
すると、カジカと呼ばれたそのスライムは青白く光ってふわりと浮かび、ココの額の中央に止まり、そのままホクロのように埋まってしまった。
「ほう……ココや、お前は恐らくスフィア様の加護を受けたに違いないよ。この先きっとそのカジカがお前を守ってくれるさ」
けれどもそれ以来、不思議なことが起こらず、ココの額の真ん中にあるビーズ玉のような透明なホクロは変化しないままだった。
月日は経ち、おばばの死と共にココは村から出ることになった。
薫はあくびをした。すると転生神もあくびを。「あくびってうつるって本当だったんだ」そして、「今日はこれでやめだ」とコメントを書いた紙を転生神の顔の上に重ねた。
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