秘伝と夢 (未完)
この物語が何冊目の特殊書籍かは数えないことにしています。
ある日死んだ爺ちゃんの遺品から謎の書が見つかった。
和紙を綿糸で閉じていて、筆と墨で書かれた何かの秘伝書だった。
なにしろ表紙には『秘伝』とだけしか書いてないのだ。
たぶんこれは爺ちゃんの手描きに違いない。
僕は家族に内緒でこっそりそれをしまっておいた。
中を見ると、第一段から九十九段までの動作が簡単な絵と細かい字の説明で書かれている。
第一段は両手の掌を向かい合わせて手指を湾曲させて丸く窄め、両手が触れない程度に近づけて静止する動作だ。
それをずっと続けていると、手がジンジンして来て、やがて手指から白い霞のようなものが見えるようになった。
さらに続けていると、何かのはずみに両手の間の空間に白い半透明のボールのようなものが見えて来た。
僕はふざけて例の漫画の動作を真似して声を出した。
「カ――メ――ハーーメーー波ァァーー」
するとその白っぽい球は前方に飛んで行って壁に吸い込まれるようにして消えた。
第一段ができると第二段、それが終わると第三段というように僕は修行を積んだ。
一段につき何らかの効果が表れるまでやるので、短くて三日、長くて一週間くらいかけて修行をした。
そして1年ちょっとで最後の九十九段目の動作を終えた。
そして僕はどうなったかと言うと、なんの秘伝か分からなかったけれど、とにかく健康になったのと、白い霧がはっきり見えるようになった。
そして背後にいる人の気配も分かるようになった。
それだけだ。
僕が見える白い霧は体の表面を1cmくらいの厚さで覆ってる、オーラのようなものだ。
それはもちろん普通の人には見えない。
僕は最初は自分のオーラを薄暗いところでしか見えなかったが、そのうち明るい所でも自分のだけでなく他人のも見えるようになった。
僕は中学二年生になっていた。
ある時教室にとても美人の女生徒が転校生としてやって来た。
その子は普通の人よりオーラの色が濃くてはっきりしていた。
僕はその子のオーラってどんな感じだろうと興味を持ってしまった。
そして僕のオーラが長い帯のようにスルスルとその子の方に伸びて行って彼女の綺麗な黒髪のてっぺんから体内に入って行った。
そして真っ直ぐ垂直に降ろすと彼女のスカートの下から抜けて僕の方に戻って来た。
そのときに僕のオーラは彼女のオーラを巻き込むようにして一緒に持って来たのだ。
ワタアメを割りばしに絡めるように、彼女のオーラを引っ張って来て、それが僕の股間に入って垂直に上がって行き僕の頭頂に抜けて行き、また彼女の方に帯状になって向かって行き、彼女の頭頂に入ってそれを繰り返した。
その循環の動きは実は僕が意図的に行ったものだ。
するとそのうち彼女のオーラがだんだん濃くなって行って、僕の股間に入って来る時、生暖かいドロリとしたものが下腹部を包むような感じになった。
それがとてもいい気持だったのでたちまち僕の下腹部が反応した。
そしてまたそのとき転校生の彼女が自己紹介を終えた時だったが、僕の方を見て目と目が合った。
そのまま循環が二巡ほど続いた。ほんの2秒ほどの時間だったが、彼女はボーッとした表情で僕を見ていたような気がする。
その子の名前は贅家絵瑠という。
何故かお嬢様学校で有名な名門私立中学校から、うちの町立中学校に転校して来たらしい。
彼女は女の子に囲まれて色々質問されていた。
なんでも家の都合でお祖母ちゃんの家から通う為に転校したそうだ。
その晩僕は夢を見た。
見知らぬ立派な学校の中で綺麗な制服を着た女生徒たちが集まっている。
この学校はどこの学校だろう?
みんなランクの高い雰囲気の女子ばかりで、男子の姿が見えない。
女学校だと思う。
「きゃあ……」
女の子たちの集まりから悲鳴が聞こえた。
誰かが虐められている。
僕は女の子たちを掻き分けてその中に飛び込んだ。
すると囲まれていたのは贅家絵瑠さんだった。
髪の毛がバサバサで、制服のブラウスが破れて、スカートの上も斜めに脱げかけている。
「何をしてるんだ!」
僕は自分のオーラを拡大して、僕と贅家さんを包んだ。
夢の中ではそれが結界の積りだった。
僕のオーラの中には誰も入って来ることができない。
そしてこの結界の中には修復効果がある。
贅家さんのバサバサの髪もきれいになって、服装の乱れも治った。
「な…・・・なんだ、こいつ?」
「あんたは誰。ここは男子禁制よ」
周りの子は顔立ちも良く、育ちも良さそうなのに、攻撃的で意地悪な感じだった。
僕は贅家さんの肩を抱いて、他の女生徒たちが近づけないように、結界をしっかり保った。
そこから立ち去ろうとしたとき、贅家さんは女生徒の中心人物を指さした。
「あのスマホに私の恥ずかしい姿を撮られた」
それを聞いて、僕は素早く手を伸ばし、その女生徒が手に持っていたスマホを奪い取った。
「あっ、なにするのっ!」
奪った時スマホは白い光になって消えようとしたので、僕はそれを口の中に放り込んで飲み込んだ。
そうしなければ、その光になったスマホは元の持ち主である女生徒の所に戻ってしまいそうだったからだ。
「貴女っ、私の大事なものを飲み込んだわね!顔を見せなさいっ。変なものを被って」
僕は一目散に贅家さんと一緒にその場から逃げ出した。
そして僕はあの女生徒が言った言葉が気になって顔に手を当てた。
すると何かが僕の顔から剥がれたんだ。
それは犬の顔をした仮面だった。
「あっ、あなたは江洲田雄君だったの。助けてくれてありがとう。
衣非師愛さんからスマホを取り上げてくれて、助かりました」
「あの意地悪女は衣非師愛っていうのか。前の学校で贅家さんを虐めていた張本人なんだな?」
「衣非師建設の社長令嬢なの。クラスでは誰も逆らえないわ」
僕は結界を解いてから、自分のオーラの一欠けらを掴んでそれをストラップ付の笛にした。
そしてそれを贅家さんの首にかけてあげて言った。
「これは犬笛だけど、また危ない時にはこれを吹いてね。必ず助けに来るから」
「ありがとう」
そして僕は再び犬の仮面を被ってそこから立ち去った。
夢はそこで終わったけれど、僕は夢の一部始終を全部覚えていた。
どうしてこんな夢をみたのか。
それは多分あのとき贅家さんのオーラが僕の体内に入ったからだ。
そして贅家さんの体内にも僕のオーラが入っている筈なので、きっと共通の夢を見ているに違いないと思った。
その夢を目が覚めた後も覚えているかどうかは別として……。
薫は本を閉じて、コメントを書くと、次の本を開いた。
読んで下さってありがとう。