紙結界からの異世界転生 (未完)
この物語は23冊目の特殊書籍です。
オリビアは王都近郊の小さな農村に生まれた女の子だった。
彼女の家は貧しい農家だったが、両親とも健在で兄も三人もいた。
初めて授かった女の子なので家族全員で喜び、オリビアは家族みんなに可愛がられた。
顔かたちも美しく、将来は気立ての良い美人になるだろうと言われていた。器量の良い子は王都でも働き口があり、金持ちの家の嫁になることも多いと期待されていた。
けれども彼女が三歳の時、村の教会に連れて行かれて『ギフトの判定』を受けたとき、意外な結果が出た。
判定の魔法具である水晶球に手を乗せたオリビアの顔を見ながら、年老いた神父は悲しそうに首を横に振った。
「お嬢ちゃんは、エアスキンだよ。残念だね。お嫁に行くのは諦めなさい」
エアスキンとは何か?
それは生まれつき体の表面に薄い空気の層のようなものがあって、そのために皮膚感覚が鈍い特殊体質のことだ。
この体質は稀に見られることがあるが、そういう子にはすべての者に与えられるというギフトが授からない。
ギフトというのは神から与えられた才能の芽のことで、それを大事に努力して育てれば一流の人間になれると言われる。『伐採』のギフトがあれば腕の良い木こりになれるし、『歌唱』のギフトがあれば『歌手』になる才があるという風にだ。
オリビアは花や作物を育てるのが好きなので、『栽培』のギフトが授かると家族は噂して楽しみにしていたのだが、エアスキンということを聞いて全員ショックを受けた。
なぜならエアスキンということは、なんのギフトもないということで、しかも皮膚感覚が鈍いということなので、誰も嫁に貰おうとは思わないということなのだ。
将来どんなに美人になっても、キスしても何も感じないような女を嫁に貰いたいと思う男はいないだろうと。
そして神の祝福であるギフトを授からない女を嫁にしても、生まれて来る子にギフトが授かるかどうか怪しいと。
家族は思い出す。そういえばオリビアは転んでも擦り傷ができたり打ち身になったりすることがなく、痛いと泣いたことがないと。
「でもオリビアは僕が頭を撫でるとえへへえへへって喜んで笑うよ。撫でると気持ち良いからだろう?」
三男のサムがそう言うと、次男のジムが言った。
「それは自分が可愛がられていると思うから喜ぶんだろう」
「そ……そうか」
長男のトムはずっと黙っていたが、やがて真顔になって二人の弟に言った。
「オリビアは俺が一生家に置いて面倒を見る。お前たちもその積りでいろ」
三才になれば自分がどういう立場になったのか分かりそうなものだが、オリビアは特に泣くこともなく今まで通り家のお手伝いをしたり家族に話しかけたりして普通に過ごした。
薫は23冊目の本を閉じた。この物語も見捨てられて、巨大書棚の肥やしになっているんだなと、ため息をつく。そしてコメントを書くと24冊目に手を伸ばす。
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