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特殊書籍研究所  作者: 飛べない豚
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プロローグ

この小説は多くの未完の短編からなっています。つまりオムニバス方式です。

未完の短編は、この物語では特殊書籍として登場します。

異世界転生などをした人の人生を本にしたもので、殆どが中途で内容が止まってます。

その続きはいつの間にか始まることもあれば、希望者多数によって続けることもあります。

『特殊書籍研究所』

倶流ぐりゅうかおるは一人暮らしのニート。アルバイト情報を見ていた彼は、「羽浦はうら特殊書籍研究所」というところの募集に目が留まった。住み込み可能、自炊経験あり、特殊書籍を読んで感想を書く者、日給1万円。日給1万円なら、一か月で30万円になるじゃないか。


早速電話してみると、女性が電話に出た。

「あなた、料理できる?」

「はい、一応は。一人暮らしですので」

「本は読める?」

「はい、本を読むのが趣味みたいなもので」

「じゃあ、来てちょうだい」

「はい」

あっという間に話は決まった。こんなに簡単で本当に良いのだろうか?


郊外のあまり目立たない場所に、ポツンと建つ平屋の一軒家。蒲鉾板に小さい字で『羽浦特殊書籍研究所』と書いてある。大丈夫か、ここ?

「薫さんね? 入って入って」

玄関で迎えてくれたのは、自分と大して変わらない年齢の若い女性だった。しかも美少女だ。おいおい、こんな場所で良いのか?

一歩中に入って、「えっ?」と思った。思わず外に飛び出し、家の周りを一周した。普通の1DKくらいの小さな家だ。ところが、もう一度中に入ると、そこには巨大な空間が広がっている。三階建てくらい高い天井があり、壁一面が巨大な書棚になっていて、どこかの国立図書館かと思うほどの場所だった。玄関から入っていきなりこれだったから、当然びっくりした。

「何驚いてるのよ、薫君。さっそくだけどお腹空いたからなんか作ってよ。食材ならたっぷりあるから」


ふと見ると、どこかのホテルの厨房かと思うほどの立派な調理場があった。調理器具も揃っていて、鍋も食器も包丁も、使っていないみたいにピカピカだ。え、待てよ? 使ってないみたい? 本当に使ってないんじゃないか?

「当たり前よ。人間の姿をする前は食べる必要がなかったから仕方ないんじゃない。料理なんかしたことないわ。君が来る前はピザの宅配ばっかりだったの。もう飽きたからなんか作ってよ」

「人間じゃないって、あなたは何者なんですか?」

「私は分かりやすく言うと、転生神よ」

そう言った途端、彼女のお腹がグーっと鳴った。


炊飯器も一度も使ってない新品だった。時間がないみたいなので、米を2合研いで、早炊きのメニューにしてスイッチを入れる。薫は無駄に大きい冷蔵庫の中から豚のロース肉の塊を出して、醤油、味醂、ごま油、コチュジャン、ニンニク、ショウガ、砂糖、一味唐辛子を混ぜて万能タレを作り、薄切りにした肉をタレに浸した。

「あら、どうしてそんなに薄く切るの?」

どうやら彼女は心を読めるらしい。薫は心の中で呟いた。厚切りにするとタレの味が染みるのに時間がかかるし、焼く時も焼き過ぎて固くなる。それに、普段は切り落としの薄い肉しか調理していないから、やりたくない。これでも生姜焼き程度には切ったつもりだ。この神様は牛肉のステーキと勘違いしているんじゃないか?

心の声が聞こえたらしく、その女神さまは黙ってしまった。


次に、きゅうりも無駄に多かったので、両端を切ってピーラーで二か所皮を剥いてから半分に切り、手に塩をつけて擦り付けたものをビニール袋に入れて空気を抜き、冷蔵庫に入れておいた。即席のきゅうりの塩漬けだ。

小鍋に水と粉末和ダシを入れ、火にかける。

「それ何するの?」

「味噌汁を作るんですよ」

「それよりスープが良いわ」

「スープ? コンソメを使えばすぐできますけど、まさか何日も煮込む本格的なやつですか? できませんし、面倒くさいのでしたくありません。失敗したら時間と材料の無駄になりますし」

言ったついでに、冷蔵庫の中の膨大な材料についても文句を言った。

「あんなにたくさん買い込んだら、いくら冷蔵庫の中でも酸化したり傷んでしまい、無駄になりますよ」

すると、女神はケラケラと笑った。

「大丈夫よ、一応低温にはしてるけど、この冷蔵庫の中は時間凍結だから、絶対傷まないのよ」

マジック冷蔵庫かよ!?


味噌汁はジャガイモを乱切りにして、水を入れた小鉢でラップしてレンジで温めたものを入れ、エノキダケと白みそを入れて作った。さらに玉ねぎの皮を剥き、皮はビニール袋に入れておく。

「それなにするの?」

薫は玉ねぎを櫛切りにして、カニカマと一緒に炒め、シュレッドチーズを投入して皿に盛る。

「ええと、玉ねぎの皮ですか?」

「返事が遅いっ!」

玉ねぎの皮はハサミで切ってミキサーにかけて粉末にし、ティーバッグに入れて、出汁と一緒に使う。コクが出るし体にも良い。布の染にも使うらしいが、やったことはない。


ご飯が炊けたころに合わせてタレにつけておいた肉を焼き、味噌汁と漬物と玉ねぎの炒め物を出したが、なにか物足りない。神様のことは知らないが、青いものが欲しい。それでリーフレタスをちぎり、キャベツの芯の硬い部分を取って細切りにしたものを一度水に浸してからすっかり絞り、オリーブオイルと塩コショウをかけたものに茹で卵を添えて出した。

「ずいぶん、沢山作ったわね」

「無理に食べなくても良いです。余った分は僕が全部食べるので」

「へええ?」


食事が終わると、食べかすは水切りネットに入れて、食器は洗い桶に水を張ってつけておき、小さい生ごみバケツに生ごみを入れると、外に出た。女神が後ろからついて来る。薫は庭に備え付けてあったコンポストに生ごみを入れた。

「ふーん、その変な入れ物、そういうことに使うのね」

知らなかったんかいっ!?

そして薫は台所に戻ると、ご飯茶碗を金たわしで擦ってから、残りの食器は洗剤をつけたスポンジで洗い、油を落としてから水切りかごに入れた。箸やオタマなどの長物は箸立てや長物立てに立てる。

そして薫は神様と向き合った。

「で、仕事をやりたいんですが……仕事内容を説明してください」

すると、女神は巨大な書棚に向かって人差し指をクイックイッと動かした。一冊の本が飛んできて、女神の手の上に着地する。

「はい、これ。読んで」


受け取った本の題名は『スライム転生』だった。ええええっ? 異世界物のラノベ??

「じゃないの。これって一人の人間の人生記録よ。まだ途中なの。薫君はこれを読んでから、この後の人生の方向性を意識しながら感想として書いてほしいの」

感想を書いてどうするのだろう?

「それを元にして私がこの人の夢の中に干渉して方向付けをしてやるのよ。もっと人生が面白くなるように。要するに、薫君はこの物語がもっと面白くするにはどう続けたら良いかという意見を書いてほしいの。わかった?」

どうしてこんなことをするのだろう?

「どうしてこんなことをするのかって思った? 私は転生神よ。転生先の世界で本人の物語が面白くなれば、世界そのものも良い方に変化して行くからよ」

なるほど。じゃあ、とにかく読んでみよう。


次の話から特殊書籍の内容、つまり未完の短編が始まります。

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