99.時間稼ぎと刻む記憶(リトラ視点)
クロノを無事眠らせることができた。けれどもそれは、時間稼ぎにしかならない事はわかっていた。
眠っている数時間の間に、ソフィアが魔石を安全に方法を見つけ出せるなんてことはあり得ない。その間、私達はクロノを生かし続けることができるのだろうか。
ゼノが、少し苛立ちながらクロノを見る。
「つか、なんであんな簡単に自分の命犠牲にすんだよ。妹のためって、自分が生きてなきゃ意味ねえじゃねえかよ」
繰り返したことで、一つだけわかったことがあった。クロノは私が旅に必要だと言ったから生きていただけで、旅が終われば自分の命を犠牲にメミニちゃんを生き返らせる予定だったということ。
確かにクロノが死なないために、旅のために生きろと言ったのは、他でもない私だ。けれどもゼノの質問にもうやらないと答えたから、使うこと自体をやめてくれたのだと思っていた。その後もいつものクロノだったから、まさか旅が終わったから使っていいなんて言われるとは思わなかった。
けれども、多分きっと、それだけじゃなくなっている。
「今はもう、生きること自体を拒んでいる状態よね」
クロノは、解放して欲しいとコンコルスさんに望んだ。それは恐らく、生き返らせるために巻き戻さないで欲しいという意味だろう。
ソフィアも、悲しそうな表情をしながら口を開く。
「なんで、生きたくなくなっちゃったんだろう」
「わかんねえ。……あいつ、時間を巻き戻す魔法を使ってることがバレたら、おかしくなったよな」
「やっぱり、過去の私が何か……」
やらかしたのだろうか。そう言おうとした私の言葉に、コンコルスさんは首を振った。
「それだけの話ならば、自ら死ぬことを望まないだろう。それ以外の何かがある。それに、クロノ君は時間を巻き戻す魔法を手慣れたように使っていた。きっと時間を巻き戻せることを知って、依存するようになったのだろう。エウレもまた、そうだった」
「でも、時間巻き戻してるって、意外とわっかんねえもんだな。さっきも、コンコルスのじいさんに言われなきゃ気付けなかったぜ」
確かに、言われなければわからなかった。けれども、繰り返していると知った後だからこそ、あの時のあれがそうだったのだと思うこともある。
「神殿から返って来た後、クロノにしては珍しく、休むって言ったわよね。あの時は休んでくれるんだって安心したけれど、もしかしたら何か誤魔化していたのかも、って思うのよね」
「でも、あの時は普通に話してるだけだったよ? 巻き戻す事なんて……」
ソフィアの言葉に皆黙り込む。
手慣れているというコンコルスさんの話が本当なのであれば、3つ目の神殿からここに来るまでの間に何度も使ったということになる。けれども、その間はあまりにも平和だった。だからこそ、クロノが時間を巻き戻す理由なんてわからなかった。
コンコルスさんも、小さくため息を付く。
「……結局は、本人に聞かない限りはわからないだろうな。しかし今のままだと、クロノ君と話をする前に逃げられてしまう」
「そのためには、魔法を使えないようにしないとだよね。できればフォッシリムで色々調べたいけど……」
ソフィアは、少し心配そうな顔でクロノを見た。
確かに、眠ったままのクロノをフォッシリムまで連れて行くのは一苦労だ。けれども、なるべく大勢で、クロノの傍にいておきたかった。
「俺の魔法で運ぼう」
と、コンコルスさんはそう言った。
「は? そんなことできんのか?」
「ああ。クロノ君もたまにシャドウ ワープという魔法を使っていただろう。あれは、一度行った所であれば複数人を連れて行くことができる。……クロノ君にも伝えたつもりだったが、上手く伝わっていなかったらしい」
コンコルスさんの言葉に、私を含む3人は少し苦笑いしながら顔を見合わせた。
「その魔法だけは……、流石に早く知りたかったな」
「そうね」
そんな事を話していると、少しだけ緊張がほぐれた気がした。
また、クロノはすぐに死んでしまうかもしれない。けれども、神殿の時のような不安は無かった。なんとなく、一人で頑張らなくていいという安心感があった。
「コンコルスさん」
私はコンコルスさんを見た。
「フォッシリムに戻る前に、ここにいる皆の時間を少しだけ巻き戻してくれないかしら。そうすれば、クロノがこの後時間を巻き戻したとしても、忘れないのでしょう?」
私がそう言えば、コンコルスさんは少し不安そうな顔をした。
「もし今後クロノ君がまた時間を巻き戻し過去を大きく変えて来る事をしたならば、変化のあった過去の自分に、今の記憶が一度に流れ込んでくることになる。……辛い感情が一度に流れ込んでくるということは、想像以上に辛いものだ。俺だけが巻き戻ると言う方法も……」
「ダメよ」
コンコルスさんの言葉に、私はまっすぐコンコルスさんを見て言った。
「私も何度か巻き戻ったからわかるの。誰かが死ぬかもしれない未来を一人で抱えるのは、やっぱり辛いわ。けれども、だからこそ、皆で共有していたいの。そうしたら、今みたいに前に進める気がするわ」
私がそう言えば、ゼノとソフィアも頷いた。
「俺もそう思う。誰かがヤバくなったとしても、気付けるかもしんねえし」
「それに、一人で背負われるのは、寂しいよ」
私達の言葉に、コンコルスさんもふっと笑う。
「私も、もう少しだけ早く誰かに頼れていたら、未来は変わったのかもしれないな」
そう言って、コンコルスさんは私達を見た。
「わかった。巻き戻そう」
巻き戻したのはたった数分。けれどもこれで、今までの記憶は消えないまま残る。クロノが目の前で死のうとしたことも、生きたくないと願った事も。
けれども皆がいれば、それを抱えて前に進める。そんな気がするのだ。




