96.やり直しと共有(リトラ視点)
「クソッ。結局こうなっちまうのかよ」
そう言って、ゼノが壁を殴る。ドンという音と共に、壁が、棚が揺れた。けれども誰も何も言わなかった。
部屋に一つだけあるベッドには、クロノが寝かせられている。ソフィアの持っていた薬を使って眠らせたから、暫くは起きないだろう。
けれども、これはただの時間稼ぎに過ぎない。ここに来てからクロノは一度死に、そしてクロノ以外の全員で巻き戻ってここにいる。
1度目の私達は、クロノが時間を巻き戻していると知って、少し混乱してしまった。だってクロノは、時間を巻き戻していないと言っていて、私達もそれを信じていたから。
『なんで隠そうとすんだよ! そんなに俺達は頼りねえのかよ!』
ゼノはそう言って、クロノに詰め寄った。
ゼノが怒った理由は、私にもわかった。クロノは何も言ってくれなかったどころか、嘘をついて私達に隠したのだ。クロノが私達を信用してくれていない気がして、悲しくて悔しかった。
けれども、私だけは人の事を言えない。だって私も巻き戻っている事を皆に黙っていたのだから。
ゼノは少し前まで信用していなかったからというのもある。ソフィアとは過去の時間軸で、必要になるまで伝えない約束をした。もっともらしい理由はあるけれども、結局言わなかったことには違いない。
だからクロノにも何か理由があるのではと思った。私が皆に言わなかったように、きっとクロノにも理由がある。
そう思って、私はクロノの手に触れた。
『ねえ、クロノ。言えなかった理由があるなら、教えて欲しいの』
そう言った瞬間だった。クロノが私を見て、怯えるような表情を見せた。その理由を理解する前に、クロノは私を突き飛ばして外に出た。
その瞬間理解した。どうしてクロノが、私達に言わなかったのか。
『私のせいよ。過去の私が、きっと何かやらかしたの』
『は……? 何を言って……』
『私もね、巻き戻ってるの。4回も。しかも4回とも、クロノが最初に死んだ。もしクロノ以外が死んだ時、クロノが無意識に巻き戻していたとしたら……。そしたら、その時の記憶は残らないのよね……?』
私は、恐る恐るコンコルスさんを見た。コンコルスさんも、少し悔しそうな顔をして頷く。
『ああ、残らない。記憶が残るのは、あくまでクロノ君が時間を巻き戻すまでの間に、俺が巻き戻していた場合だけだ。だが、俺はそれをしていない。……俺が時間を巻き戻す間にクロノ君が巻き戻していたと仮定すると、クロノ君は俺達の覚えていない記憶も含めて、全部覚えているだろうがな』
クロノはきっと覚えているのだろう。臆病だった私も、全部。
『クロノ君は恐ろしい子だ。先程巻き戻した時も、少しの違和感も見せなかった。それどころか、まるで初めて聞いたような表情と、同じ言葉を言ってみせた。だからこそ、気が付くのに遅れてしまった』
『私だって、わからなかったわ。言動が変わったのも、私の行動が変わったからだと思っていたもの……』
よくよく考えてみれば、兆候はあった。私がクロノを守ろうと前に出ると、それをわかっていたかのように前に出た。それだけじゃない。3つ目の神殿で頑なにクロノが行こうとしたのも、既にそこで私が一度死んだからだと言われれば、辻褄が合う。
そんな事を思っていると、ソフィアが少しだけ不安そうな顔で私に尋ねた。
『ねえ。リトラはどうして時間を巻き戻したこと、私に教えてくれなかったの? 私達、友達だよね?』
『……最初の2回は、下手に伝えて未来を変えたくない、そんな思いがあったわ。けれども、ソフィアも生きた3回目の時、ソフィアは言ったの。私は嘘が下手だから、教えないでって。だから、私だけ巻き戻ったのよ』
『あっ……』
そう伝えれば、ソフィアは申し訳なさそうな顔をした。
ソフィアには、間違いなくそんな事を言った記憶は無い。けれども知らない自分が伝えることを拒んだのであれば、自分を責めるしかないのだ。
『私も、きっと同じ。……私ね、最初はもっと、何もできない人だった。臆病で、クロノの後ろにばかり付いて行く、そんな人だったの。だから思うのよ。クロノも私との約束を守ろうとしてくれているだけだって。……ううん。きっと約束だけじゃない何かがあるわ。だって私を見て、怯えた顔をしていたもの』
『ま、待ってくれ』
と、ゼノが不安そうな顔で私の腕を掴んだ。
『なあ、俺は……? 過去の俺は何をしてたんだ……? おまえに何か言ったのか……?』
『あなたは……』
一瞬、ゼノに伝えるべきか迷った。きっと今のゼノに過去の時間軸のゼノを伝えると、傷つくだろう。
そう思った私に、コンコルスさんはこう言った。
『伝えた方がいい。一人で抱え込み過ぎると、エウレと……、そしてクロノ君と同じ道を辿ってしまう。そんな気がしてしまうのだ。二人とも、誰も頼ろうとはしなかった』
そう言われて、私も覚悟を決めた。
結局、私一人では何もできないのだ。それは、長く旅をしてきてわかったことだ。ならば、助けを求めるしかない。3つ目の神殿でクロノを助けられたのも、ゼノと協力できたからだった。
『わかったわ。何があったか話すわ』
そう言って、私は今までの事を皆に伝えた。




