94.確信と根拠
「何度も時間を繰り返した君は、どうすれば未来を生きたいと思えるようになる?」
そう問われた瞬間、俺の思考は止まった。何故コンコルスさんが、俺が時間を繰り返していることを知っているのか、理解できなかった。
「な、何を言って……」
「今の君は、何度も時間を繰り返して狂ってしまったエウレに似ている。自分の死をもって全てを解決しようとしたエウレに」
コンコルスさんの言葉に、俺の心臓は激しく鳴って止まらなかった。けれども、大丈夫だと自分に言い聞かせる。
コンコルスさんの言った理由は根拠のない推測に過ぎない。ちゃんと否定すれば大丈夫。そう思って、俺は口を開く。
「……違います。俺は時間を繰り返した事なんて……」
「意図的ではない事はわかっている。そうでなければ、3つ目の神殿で映像を見るよりもっと前にクロノ君の妹を生き返らせていただろうからな。だが……」
「俺はやってない!」
思わず、感情的にそう叫んでしまった。その瞬間、誰かに強く腕を握られる。
ゼノが、俺の腕を掴んで睨んでいた。
「じゃあ、なんでそんなに感情的になってんだよ」
「……っ。ちがっ……」
「なんで隠そうとすんだよ! そんなに俺達は頼りねえのかよ!」
なんで? なんでって、だって本当の事を言ったら全てが上手くいかなくなったから。それなら、俺が頑張ればいい。俺が頑張って皆が生きるならそれでいい。
狂ってなんかいない。俺は正常だ。巻き戻さないと皆みたいに正しい道を選べないから、だから繰り返しているだけ。
ズキズキと頭が痛んで目が霞む。ただ見えたのは、皆の困惑する顔。また間違えた。また、間違えてしまった。
別の手が、俺の手に触れる。
「ねえ、クロノ。言えなかった理由があるなら、教えて欲しいの」
そう言ったリトラは、不安そうな顔をしていた。そんなリトラが、自ら死んだ時間軸のリトラとダブって見えた。
ダメだ。絶対にダメだ。そう思った瞬間、いつの間にか時間を巻き戻す魔法を発動していた。
「凄い! 凄い! 本物!? ここってエウレさんが研究してた場所!?」
つい先ほど聞いたソフィアの興奮する声が、俺の耳に届く。
ああ、良かった、巻き戻ったのはここかと俺は安堵する。ここなら、また誰かの死に怯えなくていい。けれども、この先の乗り越え方を俺は知らなかった。
「まず、彼が何者なのか知りたいと思わない?」
そんなリトラの言葉と共に、コンコルスさんの説明が始まる。
大丈夫。このやり取りの間に対策を考えればいい。そう思ったけれども、すぐにその計画は崩れた。
「そうだ。俺は不老不死の薬を作ることに成功した。まあ正確には、体の劣化を遅らせる薬だがな。だから500年も経てば、このように歳も取る」
記憶力だけは良かった。だから、内容は同じでも、少しでも言葉が違えば、すぐに気が付いた。コンコルスさんの言葉だけ、少しだけ違った。
対策を考えなければいけないのに、その違いが気になって考えがまとまらない。ただ、俺がメインでやり取りをしていたから、俺が何も言わないと話が進まないことも知っていた。
「でも、雰囲気は全然違いますよね? ただ歳を取っただけではないというか……」
巻き戻す前の事を思い出しながら、巻き戻す前と同じ表情で俺は尋ねる。
どうしてか、コンコルスさんはじっと俺を見た。その後、前と同じようにコンコルスさんはゼノを見る。
「ゼノ君ならわかるだろう。当時の俺の話し方は、この世界で生きていくには優しすぎる」
「……俺の事、知ってんだな」
ゼノの発言は同じ。ただどうしてか、コンコルスさんだけが少しだけ違った。
胸騒ぎがして、けれどもそれを整理する前に俺のセリフが来る。
ああ、せめて、もう少し前に巻き戻せばよかった。そう俺は後悔する。
違いが気になって、考える余裕はなかった。せめて山小屋にいた時まで時間を巻き戻せば……。そんな事を思っていると、前と同じ質問をされた。
「……俺が一度死に、エウレが俺を生き返らせる提案をした。そうすれば、エウレはどんな表情をしたと思う?」
コンコルスさんの質問に、そういえばコンコルスさんは俺とエウレさんが似ているから疑っていたことを思い出す。
その時の俺の答えは安心。そしてそれは正解だった。それら、逆の言葉を答えれば……。
そう思って、俺は口を開く。
「えっ、なんでしょう……。ええっと、不安、とか?」
そう言った瞬間、どうしてかまた、コンコルスさんは俺をじっと見た。そして、小さくため息を付く。
「……安心だ。自分の命一つで他の人がこれ以上苦しまなくて済むならと、笑った」
そう言ってコンコルスさんは、巻き戻る前と同じ説明を始めた。そんなコンコルスさんを見ながら、これで未来は変わるのではと期待した。
こんな小さなことでと思うかもしれない。けれども、こんな小さなことで、未来は簡単に変わるのだ。
その時の俺は、そんな期待で少しだけ安心してしまっていた。
神殿の話の説明が終わった。その後何を言われるのか、少しだけ俺は緊張する。
と、コンコルスさんは俺をまっすぐ見た。
「クロノ君。君は今、ここでも時間を繰り返しただろう」
「へっ……?」
突然のコンコルスさんの指摘に、俺は動揺した。
「なに、を、言って……」
そう言いながら、咄嗟に時間を巻き戻そうとする。
けれどもコンコルスさんは俺の腕を強く掴んだ。その痛みで、魔力の流れが止まる。
「何度繰り返しても無駄だ」
「無駄……?」
「俺も、一度時間を繰り返した。クロノ君が繰り返すよりも前に。そうすれば、記憶は残る。それだけの話だ」




