92.進まなかった現実と進んだ今
エウレさんがコンコルスさんを生き返らせた後、どうなったのかは俺も気になっていた。
もし神珠で見た話がただの物語であれば、きっと生き返らせた所で終わっていただろう。けれどもこれは物語ではなく現実で、そして今に繋がっているはずだった。
コンコルスさんは、少し懐かしそうな顔をしながら口を開く。
「生き返った俺は、勿論エウレに託された記憶を全て見た。……見た瞬間、思った事は一つ。俺もエウレと同じ力を手に入れて、今度は俺がエウレを助ける、と。幸い方法は、エウレの残したメモですぐにわかった」
そう言って見せてくれたのは、俺もエウレさんも使える、黒い魔法。確かにこの魔法があれば、時間を巻き戻すことができる。
コンコルスさんにも、元々魔力がある。だからきっと、自分一人でこの黒い魔力を馴染ませることができたのだろう。
そしてもう一つ、わかってしまったことがあった。
「俺が生きたのって、コンコルスさんが魔力を馴染ませてくれたからですか?」
「ああ、そうだ。……もう少し早く気付くことができればよかったのだが。すまない」
「なんで……」
時間を巻き戻して皆を救ってくれなかったのですか。そう言おうとして、止めた。
あくまでコンコルスさんは赤の他人だ。救う理由なんて、きっとない。
「……せめて、時間を巻き戻せるって教えてくれたら良かったのに」
そうすれば、メミニを助けることができたはずだった。
ずっと家にいれば、せめて違う場所に行っていれば、もし捕まってもメミニが連れて行かれそうになった時に俺が行くと言えば、メミニは守れたかもしれないのに。
少し考えるだけで、もしもが溢れて来る。何度も巻き戻しているからこそ、少しの違いで誰かが生きることも死ぬこともあるのだと理解していた。
けれども、コンコルスさんは厳しい目で俺を見た。
「クロノ君。人は神になどなれない。だから敢えて、時間を巻き戻す方法を教えなかった」
「でも……」
「時間を巻き戻し過ぎれば、人は狂う。エウレも俺も、そうだった」
コンコルスさんの言葉に、俺は首を傾げる。
だって映像で見たエウレさんが狂っているようには見えなかったし、コンコルスさんだって普通に見えた。
けれども、俺達が今まで見てきたものは、物語でいう序章にしか過ぎなかったのだと、コンコルスさんの話を聞いて思い知らされることになる。
「……俺が、巻き戻した後の話をしようか」
そう言ってコンコルスさんが話してくれたのは、あまりにも悲しい現実だった。
コンコルスさんが時間を巻き戻せば、魔石を埋め込んで手に入れたはずの力は消えていた。けれどもコンコルスさんは、生きているエウレさんに会いたくて、まっすぐエウレさんの元に向かったのだという。
けれども、エウレさんはコンコルスさんの協力を受け入れてくれなかった。
エウレさんが言うには、既に時間を巻き戻したコンコルスさんに何度も協力をしてもらったらしい。けれども何度繰り返しても、誰かが死んだのだという。
「それを聞いた俺は、納得できなかった。だって俺にその記憶は無いのだから。だから愚かな俺は、一人で戦地に向かったエウレの所に行こうとして、そして死んだ」
その事を覚えているのは、その時間軸でエウレさんが再び自分の命を犠牲にし、コンコルスさんの命を生き返らせたかららしい。そしてコンコルスさんは、再び時間を巻き戻した。
「もう許して欲しい。エウレは俺に、泣きそうな声でそう言った。……それで、諦められるわけがなかった。俺だけでは解決できないと悟った俺は、一度巻き戻ってフォッシリムで兵器を作った者に協力を求めることにした。……彼と話しているうちに、エウレのためなら兵器を使うのも良いのではという思考になってしまった。それが、エウレを救う唯一の方法だと」
「もしかして、使ったのですか!?」
コンコルスさんの説明に、俺は思わずそう尋ねた。
時間を繰り返していくうちに、人を大量に殺す選択しすら正しいと思うようになってしまうのだろうか。そう考えるだけで自分にすら怖くなる。
けれども、コンコルスさんは悲しげな顔をして首を振った。
「やってはいない。それを聞いたエウレが絶対にダメだと言って飛び出し、そして自ら死を選んだ」
「なん、で」
「それは、俺にもわからない。ただ、それを聞いたエウレは、絶望したような、そんな顔をしていた。流石に、俺も目が覚めたよ」
そう言ったコンコルスさんもまた、悲痛な顔をしていた。
「そしてもう、これ以上繰り返してはいけないと思った。これ以上繰り返したとしても、きっと俺が間違えた選択をするか、エウレを追い詰めてしまうだけなのだと悟った。だから俺は、一度だけ繰り返して、そして前に進むことにした」
「前に進む……?」
「エウレの死を、受け入れることだ。今までで一番被害が少なかった方法、つまりは俺が一度死に、そしてエウレが俺を生き返らせる流れを過ごす。……その提案をすれば、エウレはどんな表情をしたと思う?」
どうしてか、コンコルスさんは俺にそう尋ねた。俺は尋ねられた理由がわからないまま、素直に答える。
「安心、ですか?」
「……何故、そう思った」
「だって、自分の命一つで、他の人がこれ以上苦しまずに生きれるなら……」
それだけ言って、けれども俺と比べるのも違うかと思う自分もいた。
エウレさんは、色んなものを生み出し、フォッシリムの人達を救った人だ。巻き戻さないと何もできなかった俺とは違うだろう。
俺の言葉に、コンコルスさんは小さく息を吐いた。
「クロノ君の言う通りだ。エウレは、俺がそう言うとホッとしたように笑ったよ。久しぶりに見たエウレの笑顔だった」




