91.男と正体
少し歩けば、見えてきたのは人の背丈の半分ほどの岩だった。男はその岩に向かって歩いて行ったと思えば、石のようなものを取り出し、その岩に近付けた。
すると岩は動き、地下へ繋がる入り口が現れた。それは、フォッシリムでも見た地下施設の入り口に似ていた。
「入れ」
そう言って、男は階段を降り始める。その瞬間、フォッシリムの地下施設で見たものと同じ明かりが、暗闇を照らし始めた。
「……一緒だ」
ソフィアがそう言うのも納得できるほど、入り口から見える光景は、フォッシリムの地下施設と似ていた。けれども、階段を下りれば別の場所だとわかる。
階段の先には、扉が一つしかなかった。
男がその扉を開けると、誰もがハッと息をのんだ。
そりゃそうだろう。目の前にい広がる光景は、皆が知っている場所だったのだから。
ここは、エウレさんが様々なものを研究していた場所。そして、コンコルスさんとエウレさんが会っていた場所だった。
神珠が何度も見せてくれたから、鮮明に覚えている。置いてあるものは少しずつ違うけれども、机も棚もほとんどが一緒だった。
「凄い! 凄い! 本物!? ここってエウレさんが研究してた場所!?」
「ああ、そうだ」
コンコルスさんの言葉に、ソフィアは目を輝かせながら部屋の中に入る。
「凄い! 色んな魔道具が沢山ある! あれはなんだろう! 見たことない!」
「ちょっと、勝手に触るのは良くないわよ!」
リトラは慌てて止めるけれども、興奮したソフィアがそれを聞くわけなどなかった。俺も少し心配になって男を見ると、男は微笑ましそうにソフィア見ながら口を開く。
「別に好きに見てもらって構わない。俺よりも、彼女のような子に見てもらった方が、エウレも喜ぶだろう。ここにある魔道具の大半は、俺がエウレの研究を少しアレンジして作ったものばかりだからな」
「やっぱり!?」
と、ソフィアが目を輝かせて言った。そして、昨日見つけた魔道具を取り出す。
「この魔道具作ったのも、あなただよね!? だってここにある魔道具と仕組みが同じだもん!」
「そうだな。きっと回収し忘れていたのだろう」
「じゃあ、これの仕組みって……」
「ソフィア、待って!」
暴走しそうなソフィアを、リトラが止める。
「まず、彼が何者なのか知りたいと思わない? エウレさんのことも詳しいみたいだし」
「確かに! ねえねえ! あなたは何者なの!?」
そう言って、ソフィアは目を輝かせて男を見る。
「それでは、自己紹介でもしようか」
そう言って、男はフードを取った。
「俺の名前はコンコルス。この名前で、俺が何者か、おまえ達にはわかるだろう」
コンコルス。その名前は勿論知っていた。彼が何者なのか、どういった人生を歩んできたのか。けれども知っていたからといって、理解ができるわけではなかった。
よく見れば、確かに顔立ちは似ていた。コンコルスさんが年を取った姿と言われても、納得はできた。けれども、500年前の人が生きているなんて思えなかった。それに、話し方も雰囲気も、映像の中の優しくて穏やかな男とは雰囲気が違い過ぎた。
「もしかして、不老不死の薬……」
と、ソフィアがポツリと呟いた。
「そういえばなんだけどね。色々と調べてる時に、ティオおじさんの部屋でそういった研究がまとめられてる古いノートを見た事あったんだ。その時は別の事に興味があったから、詳しくは知らないんだけど……」
「……ああ、そうだ。そして俺は、それを作る事に成功した。まあ、エウレのおかげではあるが。そして正確言うと、不老不死の薬ではない。体の劣化を遅らせる薬だ。だから500年も経てば、このように老ける」
「でも、雰囲気は全然違いますよね? ただ歳を取っただけではないというか……」
「そうだな」
俺の質問に、それだけを言って、コンコルスさんはどうしてかゼノを見た。
「ゼノ君。君ならわかるだろう。当時の俺の話し方は、この世界を生き続けるには優しすぎる」
「……ああ」
ゼノは、何か腑に落ちたような顔でコンコルスさんを見る。
「つか、俺のこと、やけに詳しいんだな」
「君達の旅を見ていたからな。全てではないが、ある程度の話は聞かせてもらった」
「そういうことか」
ゼノとコンコルスさんのやり取りを理解できずにいると、ゼノが恥ずかしそうに頭を掻きながら口を開く。
「誰にどこまで言ったか覚えてねえけど、俺、そこそこいいとこの家出身なんだ。だから、まあ、話し方も昔は違うっつうか……。今の方が、人に舐められねえだろ?」
確かに、ゼノの印象は荒っぽくて、何も知らない人から見れば怒らせれば何をされるかわからないという印象を受ける。そして、イグニスベルクの雰囲気を思い出すと、今のゼノの方が過ごしやすいのだろうということも理解できた。
きっとコンコルスさんもそうだったのだろう。確かに、映像の中のコンコルスさんは優しすぎる印象があった。
「納得してもらえたか?」
コンコルスさんの言葉に、皆頷く。別人のような印象である事以外は、何もかも辻褄があった。
と、俺はコンコルスさんが昔俺に言った言葉を思い出す。
「そういえば昔、コンコルスさんは女神様に会った事があるって言っていましたよね?」
「……よく、8年も前の会話を覚えているな」
「えっ、まあ、印象的な事でしたし?」
そんな俺を、どうしてかコンコルスさんはじっと見つめた。
「……正確には、少し違うがな。せっかくなら、エウレが俺を生き返らせた後の事を話そうか。ゴールの前に過去を知る。それが、いつもの流れだろう?」
コンコルスさんの言葉に、俺も、皆も頷いた。




