90.再会と不思議
暫くして、お母さんも部屋から出てくることができるようになり、日常に戻っていった。
けれども、日常に戻っていくにつれ実感する。どれだけ頑張っても、メミニはいないままなのだと。何カ月も経って、ようやく頭がその事を理解した。
その時初めて、泣きたくなった。けれども俺が守れなかったせいだからと思うと、泣く資格はないのだと思った。
メミニを生き返らせる方法があると言った男の言葉のおかげで、メミニを生き返らせることが人生の目標になった。
本当は俺の魔法で生き返らせることができたのだと、今更になって知ったけれども。
「早くメミニに会わせてあげたいな」
なんとなく、俺はそう呟いた。そうすることで、ようやく生きてしまった罪を償える気がした。
けれども、リトラのために、まだ死ねない。必要とされることは嬉しかった。リトラが必要だと言うのであれば、リトラに不要だと言われないように、リトラの望む俺でいたかった。
そう思った瞬間、頭がズキリと痛む。けれどもいつもの事だと思いながら、俺は皆の所に戻った。
皆の所に戻れば、どうしてか皆、広げたはずのキャンプを片付けていた。
「あれ、どうしたの?」
「ゼノか近くに山小屋を見つけたのよ。使えそうな場所だったから、そっちに移動しようと思って。ソフィアは調査したいって先に行ってるわ」
その言葉通り、すぐそこに山小屋があった。俺たちが近付くと、ソフィアはニコニコしながら俺達の元に駆け寄ってきた。
「あのね! あのね! 裏に馬小屋っぽい場所があったんだ! 古くて、もうほとんど崩れてるけど……。でも、建物自体はもっと新しくて、手入れもされていて……。誰かが使ってるのかな?」
「確かに、こんなところに建物なんて、不思議よね」
リトラは、少し不気味そうに山小屋を見た。けれどもゼノは、何も気にせず小屋のドアを開ける。
「まっ、中になんも置いてなかったし、大丈夫だろ。もし怒られれば出て行けばいいって」
「それもそうね。寝るなら、壁と屋根がある方が落ち着くわ」
そう言って、リトラも不安が消えたような顔をして小屋の中に入る。
大丈夫。何かあれば巻き戻せばいい。そう思って、俺も小屋に足を踏み入れた。
小屋の中は、本当に何もなかった。木で作られた簡単なもの。
方位磁石も使えないこの場所で、誰が何のために作ったのかなんてわからない。魔道具が見つかったことから、フォッシリムにいた人である可能性はあった。けれどもソフィアが言うには、フォッシリムで使われていたものと構造が違うらしく、断定はできないらしい。
ただ一つだけわかることは、ここに人の行き来がある、或いは少し前まであったことだった。
けれども、それはすぐにわかることになった。
山小屋で一晩を過ごしてから半日歩くと、突然神珠の光がプツリと消えた。けれども、消えた場所は何の変哲もない森の中。いつものように街があるなんてことはなかった。
「どういうこと?」
困惑するソフィアに、俺は今までの事を思い出しながら口を開く。
「とりあえず、何歩か下がってみて」
「わ、わかった」
ソフィアが何歩か下がれば、再び一つの方向を指し示す線は現れた。それは、今までの街と同じように、神珠がここにあることを示していた。
「どういうことかしら。ここに昔、街とかあったってこと?」
「それだったら、もうちょっと何か残っててもいいと思うんだけど……」
そんな事をリトラとソフィアが話していると、突然ゼノが警戒の体制を取った。聞こえたのは、何かの足音。俺もリトラとソフィアを守るように前に立つ。
「警戒などしなくていい」
「えっ……」
と、聞こえた声に俺は顔を上げる。その声は、聞き覚えのある声だった。
「ほう。俺の事を覚えていたか」
「だ、だって……,」
そこにいたのは、8年前、俺を助けてくれた男だった。
「……えっと、全くお変わりないですね」
「……この年齢になると、そういうもんだろう。子供が成長するように、そう変わるものでもない。そうは思わなかったか?」
「いや、まあ……。そうですね……」
確かに、あまり変わらない人もいる。けれども、たまに会うような人であれば8年も経てばやはり老けたように感じてしまうものだ。
けれども、目の前の男に関しては、そんなようには見えなかった。もしかしたら、髭を生やし、フードを被っているからそう思っただけかもしれない。そんな事を思っていると、男は笑う。
「まあ、そのことに関してはおいおい話そう。それより……」
「待って……!」
と、リトラが動揺しながら俺を見た。
「ク、クロノ、この人と知り合いなの……!?」
「あっ、うん。知り合いというか……。8年前、誘拐された俺を助けてくれた人」
そう俺が言えば、リトラはどうしてかホッと息を吐いた。
「そう……。えっと……」
「君とははじめまして、で、問題ないな」
「えっと……。はい。えっと、その、はじめまして……」
そうして、皆は男性に自己紹介する。けれども男は、名乗らなかった。
「俺の名前は、後で話す」
そう言った男を、ゼノは睨んだ。
「……そんな、隠す情報なのか?」
「今伝えると混乱すると思ってな。……不安か?」
「……いや。ただ、なんだか見たことある顔な気がしただけだ」
「……そうか。君は勘が良い。理由を聞けば、納得はするはずだ」
そう言って、男は俺達に背を向ける。
「付いて来い」
男はそれだけ言って、歩き始めた。




