88.完璧な道と依存
流石に、俺が魔法で妹を生き返らせようとしたことは、あの後ウルティオさんにも伝わったらしい。もう二度とそんな事をしてはいけないと言われてしまった。
ウルティオさんも、きっと俺が価値のある人間だと勘違いしているのだろう。何度も皆を殺したことを知らないで。
いっそのこと、正直に言ってしまおうか。そう思ったけれども、何度もリトラが自ら死んだあの光景がフラッシュバックする。
もし、俺が言ったせいで誰かが同じ事をしたら。そんな事を思うと、耐えられなかった。
「あはは。俺、あの時はどうかしてましたよ。もうしませんから」
だから、俺はそう誤魔化すしか無かった。けれども、それが正解だったらしい。ウルティオさんも、周りで聞いていた皆も少しホッとした顔をして、それ以上何も言わなかった。
どうやら、皆俺に死なないで欲しいらしい。きっと未来を知っているからこそできた事を期待しているのだ。
皆の期待に応えたい。けれどもきっと応えられない。それが申し訳なくて、そしてどうすればいいのかわからなかった。
そして俺はまた、間違えてしまった。
「女神様に叶えてもらう願い、何がいいかな」
そんな事を呟けば、怪訝そうな顔で皆俺を見た。
「願い? 別にクロノの妹を生き返らせるままでいいわよ。私はその……、純粋に知りたいだけだし」
「いや、でも、妹を生き返らせるのは俺の……」
そう言いかけて、旅が終われば魔法でメミニを生き返らせようとすることがバレてしまった。それからは、またあの繰り返し。
咄嗟に、俺はまた繰り返す。そうすれば、俺の失敗は全部無かったことになっていた。
ああ、こうすればいいのか。そう俺は思った。
少しの失敗でも巻き戻せばいい。俺が少しでも迷惑かけない道を、そして皆の望む完ぺきな道を選び続けるのだ。
きっとこれが、俺に望んでいる事だ。そして、役目を果たした後に死ねばいい。繰り返さなければ価値のない俺なんて、いらないのだから。
ああ、でも、願いに関してはどうしようか。このままだと、俺の願いのために貴重な願いを使うなんて、勿体ないことになってしまう。
まあ、それもまた、ゆっくり考えればいい。そう思った。だって、まだ4つ目の神殿があるのだから。
きっと馬鹿な俺は何度も繰り返すのだろう。その間に考えればいい。
「……ねえ」
と、リトラが俺に尋ねた。
「念のため聞くけれど、あんたは時間を巻き戻す魔法なんて、今まで使ってないわよね」
「えっ? うん。使ってないよ」
一瞬、巻き戻している事がバレたかと思った。けれどもリトラは、ホッとした顔で言う。
「……そうよね。もし繰り返してたら、もっと知ってるような反応するものね。良かったわ」
ああでもと、俺は皆の反応を確認するために口を開く。
「皆、安心してね。皆が死んだら、時間巻き戻して、絶対に皆を死なせないから」
「そんな事を言うなら、あんたは絶対に死んじゃだめなんだからね! あんたが死んだら……、困るのは私達なのよ」
「わかった。絶対死なないようにする」
そう言えば、皆笑った。
やっぱり、これが正解なのだろう。これが俺に求められている事なのだ。
それから、短い間に何度か俺は少しだけ時間を巻き戻した。少しのミスもやらかしも、全部全部やり直すために。
短いスパンでの繰り返しは、長いスパンの繰り返しよりも頭は混乱した。どの記憶で乗り越えたのか、何を話して今この時があるのか、わからなくなっていく。けれども間違えれば、またやり直せばいい。簡単な事だ。
「休めたか?」
いつ出発するかの話し合いをしている時に、ゼノは俺にそう尋ねた。そういえば、話を切り上げるために寝たいなんて言ったんだっけ。
その時の事を思い出しながら、俺は口を開く。
「おかげさまで。そろそろ出発の準備でもする?」
本当は、ずっと頭が痛くて眠れていない。何度も繰り返すうちに、それまでは無かったはずの頭の痛みが俺に付きまとっていた。
けれども、俺のために待ってくれていたのならば、もうこれ以上足踏みするわけにはいかないだろう。
「そういえば、ティオおじさんはどうするの?」
と、ソフィアはウルティオさんに尋ねる。
「……そうだね。私はもう少し、ここに残る事にするよ」
「えー、来ないの!? 4つ目だよ!? 4つ目!」
そう言えば、ウルティオさんは眉を下げる。
「申し訳ないけれども、少しだけ調べたい事があってね。また必要があれば合流するよ」
「調べたい事って何?」
「……エウレ様の事を、ちょっとね」
そういえばウルティオさんはエウレさんが女神様だと考えていて、それで会いたいと思っていたのだっけ。けれどもエウレさんはもう死んでいた。それにショックを受けていた事も、ここ数日のウルティオさんを見て知っている。
「うん、わかった。じゃあ、何かわかったことがあったら伝えるね!」
「そうしてもらえると助かるよ」
そう言いながらも、ウルティオさんはまた悲しそうに目を伏せた。その時ウルティオさんが何を考えていたのかなんて、この時の俺は想像もできなかった。




