84.神様とただの人(リトラ視点)
(リトラside)
「こんなとこ、早く出ようぜ」
ゼノの言葉に、私を含めた皆が頷いた。まだ少しぼんやりしているクロノの腕をゼノが引っ張り、出口に向かって連れて行く。その隣で心配そうに、ソフィアがクロノを見ていた。
きっと二人とも不安なのだろう。私だってそうだ。もうあんなことはしないと約束はしてくれたけれども、何かの拍子にまた死のうとするのではないかと怖くて怖くて仕方ない。
だって本当は、もう四回もクロノは死んでいるのだから。しかも二回は、この神殿、そして残りニ回は、私のせい。
クロノが最初に死んだのは、イグニスベルクでの神殿だった。
最初の私は、何もできない私だった。クロノの後ろに隠れて、守られているばかりの私。母親が死んで、捕まって売られそうになって、世界の全てが怖かった。
だから、クロノが私を助けてくれた時は、神様が現れたのだと思った。それは旅を始めてからも同じで、私達に牙を向けてきたゼノにすら手を差し伸べようとする、そんな人だった。
クロノの事を好きになるのに、時間はかからなかった。勿論怖い事もあったけれども、けれども何があっても必ず助けてくれるクロノという存在に、安心して、幸せで、離れたくないと思ってしまった。
私は、クロノの温もりに安心しすぎてしまっていた。この幸せが、当り前のように続くのだと思っていた。
クロノは神様ではなかった。
クロノは死んだ。イグニスベルクの神殿で、私を守ろうとして夢を見たままのゼノに殺された。
それからはあっという間だった。ゼノは次にソフィアを殺し、そして私をも殺そうとした。
突然、男が現れた。髭を生やし、フードを被り、顔の見えないその男は、どうしてかクロノと同じ黒い魔法を使ってゼノを倒した。
そして、男は口を開いた。
『時間を巻き戻す。……ここまで、死者を出さずにこれるとはな。本来であれば、諦めろと説得していたが……。再び挑むかは、おまえに任せる』
それから戻す時間を問われ、私は私が誘拐される前まで戻る事を望んだ。もし私が誘拐されなければ、クロノは私を助けないし、ソフィアはクロノが魔法を使っている所を見ないかもしれない。そんな事を、思っていた。
けれども、同時に思うことがあった。もし旅に出なければ、クロノは願いを叶えられない。クロノが願いを言った時の、少し寂しそうな顔が頭から離れなかった。
いや、本当は私がクロノと出会わない人生を歩むのが怖かっただけかもしれない。私は色んな言い訳を頭に思い浮かべながら、過去の時間軸で誘拐された場所に向かった。
それからは、過去の時間軸と全く同じ。クロノは同じ方法で私を助けてくれて、そして同じ台詞を言った。
『大丈夫? もう君は安全だからね』
クロノが生きている。そんな事実に泣きそうになった。
けれども同時に思い出す、ゼノに刺されて血を流して死んでいるクロノの姿。思い出した瞬間、私は思わずクロノの肩を掴んでいた。
『ねえ、怪我は……!? 痛いとことか苦しいとことかない……!? あっ、私、回復魔法使えるから……! だから、怪我したらすぐに言って……!』
思わずそう言えば、クロノは少し驚いた顔をした後、苦笑いしながらも大丈夫だと言った。大丈夫と笑うクロノを見ながらも、死んだクロノの姿が頭にチラついて離れない。
そうだと私は思った。今度は、私がクロノを守ろう。これから何が起こっているのか知っているのだから、きっと守れるはずだ。
だから、巻き戻ったことはクロノにも誰にも伝えないことにした。その方が守りやすい。そう思った。
けれども、上手くはいかなかった。ゼノを仲間にしないように必死にクロノを説得したけれども、まるで運命が決まっているかのようにクロノはゼノに手を伸ばし、仲間に引き入れてしまった。
それだけじゃない。すぐに戦いでボロボロになるクロノを何度も見てきたから、せめてそれだけでも減らそうとした。けれども、クロノはまるで私の行動をわかっているかのように動き、そして守られてしまう。
一瞬、クロノも時間が巻き戻っているのではと思うこともあった。けれども、その考えはすぐに消えた。
意図的に巻き戻せる事は知らないはずなのに、混乱する様子など一度もなかった。しかも、私は既に知っている事に関してボロを出さないようにするのに必死なのに、クロノは巻き戻る前と同じような反応を見せ、同じ言葉を言って、同じように全てを解決していく。巻き戻っているようには見えなかった。
そして、私が何もできないまま、あっさりとイグニスベルクの神殿もクリアしてしまった。クリアできた理由はわからない。私が行動を変えたらクロノや周りの言葉や行動も変化する事もあったから、それが影響したのかもしれない。
けれども、不安は消えなかった。クロノは死んでしまうただの人なのだと理解してから、クロノの行動全てが怖くなっていた。
クロノは自分が傷だらけになることなんて気にしない。ずっと最前線に立って、私達を守ろうとする。だから、何かの拍子にあっさり死んでしまうのではないかと怖かった。
そんな無茶ばかりするクロノを、私は必死に止めようとした。
馬鹿だった。
アミクスとの戦闘で、下手に前に出てしまった私を庇ってクロノが死んだ。ゼノの攻撃に当たって、死んでしまった。
私のせいだった。
それからは、一瞬だった。クロノを殺してしまって動揺したゼノが、アミクスによって殺された。そしてソフィアも、アミクスに殺された。
当たり前のように、男が現れた。男が口を開く前に、私は叫んだ。
『戻して! お願い、また同じ日に戻して! 私の……! 私のせいなの……!』
その言葉に、男は何も言わず、また私をあの日に戻した。




