73.物と情
俺の隣に転がる、アミクスと同じ顔が転がっていた。それにビビる俺に、ウルティオさんは笑いながら近づいた。
「クロノ君、大丈夫だよ。これは、もともと取れていたからね」
「取れていた……?」
「そうさ。頭と体の間は可動域だからね。外していても影響はないんだ。つけっぱなしのほうが何かの衝撃が加わったときに接合部分が傷んでしまうから、敢えて外していたんだ。ほら」
そう言って、ウルティオさんはロボットの顔の裏側を俺に見せた。それを見た所で知識のない俺には問題ないかどうかはわからなかったが、何かが破損したわけではないという事だけはわかった。
「それほど簡単に付け外しできるものなのかしら?」
リトラも、少し不思議そうな顔をして、ロボットの顔の裏側を覗き込む。そんなリトラの質問に、ウルティオさんは眉を下げながら言った。
「いや、流石に簡単にとはいかないね。一つ一つ間違えないようにコードを繋げていかないといけないから、専門的な知識はいるし、時間もかかる。だからアミクスだけは残しておいて、他はアミクスが壊れた時のためにって思っていたんだけどね」
「……いや、アミクスの代わりなんてねえから。てめえ、冷たすぎるだろ」
ぼそりと言ったゼノの言葉に、ウルティオさんは苦笑いする。
きっと、ウルティオさんにとってアミクスは、修理のできる、あくまで「物」なのだろう。だって、ロボットの理屈がわかって自分で作り出せるのだから。だからウルティオさんにとって、ソフィアはぬいぐるみを無くして泣く子供にしか見えないのかもしれない。
いや、実際そうなのだろう。ウルティオさんを冷たいと言うゼノだって、アミクスに情を感じていない過去の時間軸では、ソフィアの気持ちを気にせず壊していた。そういうことなのだ。
『ねえ、ティオさん! アミクス直せないの!?』
過去の時間軸で、ソフィアがウルティオさんに泣きながら縋る姿を思い出す。けれども、直すことはできないとウルティオさんは首を振った。
「……せめて、壊してもアミクスを直せたらいいのにな」
俺はそうぽつりとそう呟いた。
「いや、直せるか直せないかはわからないよ?」
けれどもウルティオさんは、不思議そうな顔をして俺を見た。その言葉に、俺は動揺してウルティオさんを見る。
「えっ、でも……」
「まあ、戦闘ともなれば直せるかどうかはわからないけどね。特に記憶の部分、それが破壊されてしまえば、ソフィアの望む形では修理できないだろう。けれども、腕が取れても部品があれば修理できるし、エネルギー供給に使っている魔石とその周辺の構成も、他の魔道具より難しいものではないからね」
そういえばと俺は過去の時間軸のことを思い出す。直せないと言ったウルティオさんは、理由をそう言ったのだ。
『アミクスは、完全に頭の部分が損傷している。修理したとしても、何も覚えていない状態だ。体の部分もこれだけ損傷していると、全部入れ替えになるね』
『そんなの、そんなのアミクスじゃない……! 全部忘れてるなんて、アミクスじゃないもん……!』
その時は、アミクスと一から新しい思い出を作っていくとソフィアは自分に言って、アミクスの一部を使ったロボットをウルティオさんが作り直してくれることになった。きっとその基が、ここにあるロボットだったのだろう。
けれども、一つの案が俺の中で浮かぶ。もし、頭を損傷させなかったら? それだけじゃない。うまく頭と体を切り離せたら? そしたら修理はできるのではないだろうか。
そうは思うけれども、アミクスを壊すことには変わりない。そう思ってしまうと、自分は冷たいのではと不安になる。
「ねえ……!」
と、リトラがウルティオさんの服の裾を掴んで言った。
「つまりは、うまくやればアミクスを壊しても修理できるってことかしら!?」
そう言ったリトラに、俺は思わず顔を上げる。
「まあ、できなくは……」
「それなら……! でも、ええっと、でも、どうすれば……」
そう考え込むリトラに、俺の胸は鳴る。まだ、旅を諦めなくていいのだろうか。
喉の奥が乾く。少し声は震えていたかもしれない。ただ俺はゆっくり、先程思いついた案を口に出す。
「もし、頭と体を切り離すことができたらどうですか!? そしたら、記憶も、体の大部分も……」
「確かに、その状態なら修理はできる可能性が高いね。可動域の部分は、エネルギーと思考の領域を繋ぐためにあるだけのものだ。そしえその二つを切り離せば、確実に動きを止めることができる。可動域の部分も柔軟性を持たせているから、外側よりも柔らかいしね。……でも、方法はあるのかい?」
「それは、コントロールが難しいけど、俺の魔法のダークソードを使えば……」
「俺が切る」
と、隣で黙って聞いていたゼノが、俺の前に出て言った。
「俺の方が切るのは得意だ。それに、あいつに魔石も埋め込んでもらったしな」
「火属性の魔石だったよね。それなら、確かに切りやすいかもしれない。ただ、周りの部分も火魔法に耐えるようには作られているとはいえ、内部からの熱は限界があるからね。時間をかけずに切って欲しい」
「まかせろ。スピードとパワーにも自信はあるぜ」
そう言って、ゼノは俺を見る。
「……うん、そうだね。心強いや」
俺はそう言うしかなかった。だって実際、それが事実なのだから。
けれども、素直に喜べないのはどうしてだろうか。
そんな俺に向かって、ゼノは笑う。
「だろ? ……まあ、あくまでソフィアがそれでいいって納得してくれたならだけどな」
「さっそくソフィアを探しに行きましょう? ……これで、諦めずに進めるといいわね」
そう言って、リトラは俺に笑いかける。けれどもすぐにそっぽを向いた。
「まっ、まあ、あんたのことなんかどうでもよくて? 私がここで諦めるのはちょっと嫌だっただけだけど?」
「そっ、そう……」
リトラがわざわざそう言った理由が、俺にはわからなかった。
ただ、またゼノがリトラに何かを言って、リトラがゼノの足を踏む。そんな二人の関係が、羨ましくて仕方が無かった。




