67.強い望みと選んだ人
そのやり取りの後、俺は神殿で見たことをウルティオさんに話した。
それからの反応はいつも通りだった。そして説明し終えた後、俺は念の為過去の時間軸と同じ質問をする。
「……ウルティオさんは、あの兵器がどうなったのかご存じですか? フォッシリムの結末は、なんとなく想像が付きますが」
その質問に、ウルティオさんは少しだけ何かを考え込んだ。そして、眉を下げながら、口を開く。
「申し訳ないが、何も知らないんだ。兵器の存在すらも、私は知らないからね。……ただまあ、ご想像の通り、ここは攻めこまれてこの有様だよ」
「そう、ですよね……。それで……」
と、ウルティオさんが過去の時間軸と異なり、俺をじっと見つめていた。
「ウルティオさん……?」
俺がそう尋ねると、ウルティオさんはごめんごめんと笑う。
「いや、クロノ君なら、その兵器も使うべきではないと言いそうだなと思ってね」
「あはは。はい。だって……」
「無関係な人を巻き込みたくない。それに、話し合えば道は開けるかもしれない。かな」
「えっ……?」
ウルティオさんに考えを言い当てられた俺は、驚いて思わずウルティオさんの方を見る。
「そっ、そうですけど……。なんで……」
「ただ、先程言ってたことと、エウレ様が言っていた事を並べただけだよ。なんとなく、君はエウレ様の言葉に賛成している気がしてね」
そう言うウルティオさんは、また少し寂しそうな顔をしていた。その理由はわからない。ただ、一つだけ思う所があった。
「あの、ウルティオさんはもしかして、兵器を使うことに賛成なのですか?」
「……賛成かな。私は、この世には話し合いでは理解し合えない人がいると思っている。それならば、結局必要なのは力なのではないかと思っていてね」
「で、でも、それで無関係な人を巻き込むのは……」
「その方法でないと、大切な人を守れないとしたら? ……例えば、リトラさんとか」
その言葉に、俺は固まる。
ずっと、守れなかったとしても、繰り返して道を見つけることが当たり前になっていた。何度もやり直して、最善の道を探していた。
けれども、もしやり直せないとしたら? そうしたら、俺はどうしていたのだろうか。
「俺、は……」
「そんな状況であれば、クロノ君だって兵器を使うことを選ぶだろう? せっかく築き上げたものまで、全部奪われるんだ」
そう言ってウルティオさんは、俺の肩を掴んで真剣な顔で見つめた。そんなウルティオさんが少し怖くなって、俺は思わず押し返す。
「わ、わかりません」
俺は、なんとか言葉を紡ぐ。
「だって、もしかしたら、俺がもっと上手くやれてたらそんな事にならなかったかもしれないって、そう思うと、多分俺は申し訳なくなって、誰を恨めば良いのかわからなくて……」
俺がそう言えば、ウルティオさんが俺の肩を握る力は少し弱まった。そしてウルティオさんは、大きく息を吐く。
「そうか……。そうか……。そんな君だから、女神様は君を選んだのか……」
そう言って、ウルティオさんは俺から離れた。
「……変な質問をして申し訳なかったね。……そうだ、3つ目の神珠はここにあると、2つ目の神珠が示したんだってね」
「は、はい」
「申し訳ないが、私も何も知らなくてね。少し、私も探してみるよ。……とはいえ、ここにあるものは全て見つくしたはずなのだけれど」
「あ、ありがとうございます」
俺は過去の時間軸と同じやり取りに戻ったことに安堵する。
それにしてもと、俺はぼんやりと思う。いつもは聞き流していたけれども、ここにあるものは全て見つくしたという事は、どれだけの労力と時間をかけたのだろうか。ウルティオさんをそれ程までに突き動かすものはなんなのだろうか。
「あ、あの!」
俺は、思わず尋ねていた。
「ウルティオさんはどうしてそこまで女神様のことを調べているのですか?」
「えっ……?」
ウルティオさんはその質問に少し驚いた顔をした後、沢山の本が詰め込まれた本棚を見ながら言った。
「会いたい、からかな」
「会いたい……?」
「あ、いや、女神様がここに残した技術はどれも素晴らしくてね! 研究者魂と言うべきだろうか。しかも、願いを叶えて貰える時に会えるのだろう? ついでに色々と聞いてみたい事が……」
「なるほど……?」
俺には、研究者魂というものはわからない。けれども、ソフィアもイグニスベルクにあった、女神様が作ったという技術を目を輝かせて見ていた。だからきっと、それに近いものなのかもしれないと、俺は思う。
「それなら、女神様に願いを叶えてもらう時は、一緒に行きましょう」
「いいのかい?」
「勿論ですよ! それに、もしかしたらウルティオさんを見たら女神様は驚くかもしれません」
「驚く……?」
俺の言葉に、ウルティオさんは首を傾げる。
「はい! イグニスベルクで見た、恐らく兵器を開発したであろう男の人が、ウルティオさんに凄く似ていて……。もしかしたら、ウルティオさんと直接血の繋がったご先祖さんなのかも。あっ、でも、あれはエウレさんの記憶だから、女神様がウルティオさんに会ったわけではないのか……」
そう。イグニスベルクで見た男性は、ウルティオさんと似ていた。ウルティオさんもまた機械が得意だと言っていたので、関連があるのかもしれない。
俺の言葉に、ウルティオさんも笑う。
「……なるほど、そんなことが。しかし、エウレ様の記憶に私のご先祖様が残っているなんて、少し誇らしいかな」
「あはは。そうですね」
そんなやり取りをした後、俺はウルティオさんの部屋を出た。
ウルティオさんがどうしてあんなことを言ったのか、俺にはわからない。けれども、俺の知る未来におかしなことは起きていないのだから、深く考えなくても良いだろうと思う楽観的な俺がいた。
俺としてはそれよりも、次に来るであろうことを、無事に乗り越えることに集中したかった。




