63.当然と日常
「そうだ! 久しぶりにアミクスの作ったご飯食べたい!」
と、ソフィアが言った。
「かしこまりました。何か、ご希望はありますか?」
「えっとねえ。肉団子と野菜のスープ!」
「かしこまりました。1時間程お待ちいただけますか?」
「大丈夫だよ! アミクスの料理してるとこ見たいから、後でキッチンに行くね!」
「かしこまりました。いつでもお待ちしております」
そのやり取りに、ゼノが目を丸くしてソフィアとアミクスを見る。
「こいつ、料理もできるのかよ」
「うん! そうだよ! 料理も掃除も、なんでもできるの!」
「すげえな……。使用人いらねえじゃねえか……」
そんなゼノの言葉に、再びソフィアは誇らしげに笑う。
「そうでしょ! あっ、そうだ! アミクス! 今日は泊まりたいんだけど、皆に部屋案内しても大丈夫かな?」
「はい。大丈夫です。どの部屋も、定期的に掃除していますので、問題ございません」
「わかった! ありがと! 案内してくる!」
ソフィアがそう言うと、アミクスはどこかに消えて行った。
その後ろ姿を見た後、ソフィアは俺達を見る。
「じゃあ、さっそく荷物置きに行こう! 部屋は沢山余ってるから、一人一部屋あるよ! 勿論鍵付き!」
「それはありがたいね」
俺はソフィアの言葉にそう言った。
実際、鍵付きの部屋に一人になることができる時間は本当にありがたかった。誰かがいると、どうしても自分の中にある不安や隠し事が表に出ないか気になってしまって、気を抜けなかった。
けれども、鍵付きであれば絶対に中に入って来ることができない。だからこそ、気を抜いて過ごすことができた。
けれども、ゼノは別の事を思ったのか、真面目な顔でアミクスが消えて行った方を見つめていた。
「……なあ。ここって、ソフィアとティオおじさん? ってやつしか、もう住んでねえの?」
「えっ? あっ、うん。そうだよ? まあ、住んでるって言っても結構色んなとこ行ってるから、いない時の方が多いかな」
「そっか。あいつ、誰もいないのに、全部の部屋掃除してんだな」
「あっ……」
ソフィアはゼノの言葉に何か気付いたのか、少し眉を下げながら笑った。
「……そうだね。それが当たり前になっちゃってたや。女神様の旅が終わったら、ここで暫く過ごして……、ううん、ちゃんといっぱい帰ってこようかな」
少し申し訳なさそうな顔をするソフィアに、リトラも少し悲しげな顔をして、口を開く。
「……それもそうだけど、まずは今日にでも、アミクスに沢山旅の話をするのはどうかしら? きっと聞きたがってるわ」
「そうだね! いっぱい話す! と、いう事で、まずは皆の部屋を案内だ!」
そう笑顔で言うソフィアに、未来を知っている俺は心が少し痛む。けれども、これから待つ残酷な一つの未来だけは絶対に変えられないことをわかっていて、俺は何も言えないままソフィアの後に付いていった。
「じゃ、荷物置いたら廊下に集合ね! この施設を案内するから!」
その言葉で、俺達は休憩する間もなく出歩くこととなった。
俺は過去の時間軸で、既に施設の中は知っている。だから本音を言うと部屋で休みたいのだけれども、隣でゼノが目を輝かせるものだから、何も言えなかった。リトラも何も言っていない所を見ると、恐らく見たいのだろう。
そりゃそうだ。俺も初めてここに来た時は、疲れよりも好奇心が勝った。その時の気持ちを覚えているからこそ、俺も違和感がないように興味があるように振る舞うしか無かった。
施設の中には、見たことも聞いたけど無い機能を持つ部屋が沢山ある。何かの実験に使われるであろう装置が沢山置かれた部屋に、太陽が無くても野菜を育てることができる部屋。
勿論、図書室や浴場など、誰もが想像する部屋も沢山あった。ただ、魔力なしで貧しい暮らしをしていた俺にとっては大量の本なんて見たこともなかったし、川の水で体を拭いていたからこそ、温かいお湯が入るという大きな入れ物も、初めて見た時は感動した記憶がある。
ただ今回は、いろんな部屋を見る度に別の感情も生まれつつあった。今の時間軸でゼノに言われるまで気付かなかったが、確かにどこを見ても綺麗に掃除されていた。
きっとアミクスが、この広い施設を全て一人で掃除していたのだろう。そう思うと、何だか切ない気持ちになる。
施設を一通りぐるりと回った後、俺達は食堂の前にたどり着いた。その隣の部屋は台所となっていて、アミクスが料理を作っていた。
「ご飯できるの、もうちょっとかな? 皆は食堂で待ってて! 私はアミクスと話してくる!」
そう言って、ソフィアはアミクスに向かって駆け寄って行った。
「おっ、俺も間近であいつの料理を……」
「待ちなさい」
そわそわとしながらアミクスの所に行こうとするゼノを、リトラは止める。
「久々の友達との再会でしょ? 二人きりにしてあげなさいよ」
「えっ、あっ、確かにそうだな」
そう言って二人は、ソフィアとアミクスの方を見る。ソフィアはずっと、あのねあのねとアミクスに話しかけていて、アミクスも一つ一つに丁寧に答えていた。
その光景は友達というよりは兄妹のようにも見えなくはなかったが、それも一つの友達の形なのかもしれない。
ソフィアは幼い頃、両親を国に殺されたと言っていた。それと今の状況を見る限り、フォッシリムの生き残りはもうソフィアとウルティオさん以外いないのだろう。
そう考えると、アミクスはソフィアにとって、何も隠さず話すことのできた貴重な存在であることは間違いない。
そんなアミクスを、これから俺たちは壊すことになる。それを知っている俺は、二人を見続ける事ができず、目を逸らして食堂へと向かった。




