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6.好きといつか

 ギルドのパーティは、基本的にパーティのメンバーで協力して依頼をこなし、ランクを上げ、より難易度の高いランクの依頼を受けられるようにするのが主な目的だ。けれども、俺達のような旅をすることが主な目的であっても、二つのメリットがあった。


 一つ目は、三人がギルドから認められた集団であるという証明書を貰えること。これがあれば、住んでいる街以外でのギルドでも依頼を受けてお金を稼ぎやすくなるし、宿に泊まるにしても何をするにしても証明書は一つで済む。

 二つ目は、この公的な証明書が、リトラが攫われる抑止力になる事。基本的に貴族が平民を買うことは合法で、回復魔法の使い手も合法の上買われているという事になっている。実際は抵抗できないため無理矢理言わされているのだが、それは証明できない。けれども、パーティに所属すればパーティの誰かの承認が必要で、それを無視して売買されれば違法となる。


 手続きは、少し時間がかかる。リトラはこの街の住民でないから、元々住んでいた街から住民データを取り寄せる必要がある。けれども、いつも通りであれば一週間もすれば登録が完了するだろう。

 それまで、リトラはソフィアと一緒に住むことになった。


「リトラ! 登録が済むまでは、私がリトラを守るからね!」


 そう言って、ソフィアはリトラの手を握る。

 出来るならこの一週間もリトラと一緒にいたいが、一人暮らしをしているソフィアの方がリトラも気楽だろう。それに、同じ女性同士、どんな時も一緒にいれるというのがメリットだ。


「そうだ! この街にも美味しいものが沢山あるんだよ! 案内するから、一緒に食べようね!」

「わ、わかったわよ……」


 リトラの反応は違えど、ソフィアのリトラへの対応はいつも通り積極的だ。寧ろ、リトラ自身が女神の伝説に興味があると言った分、いつもよりも積極的かもしれない。

 そもそも、ソフィア自身も年の近い友達と交流したことがあまりないという。だからこそ、同性でもあるリトラの存在が嬉しいのだろう。


「あっ、ソ、ソフィア……! えっと……」


 と、リトラがソフィアの服の裾を掴む。


「わ、私だって、回復魔法使えるんだから、怪我したりしたら治せるのは私なんだからね! だから、ちょっとの怪我でもすぐいいなさいよ! せ、せっかくパーティ組むんだし、私だって、守られてばかりじゃないんだから!」

「ほんと!? ありがとー!! リトラ、優しい!!」


 リトラの言葉に、ソフィアは嬉しそうにリトラに抱きつく。


「ちょ、近い! そんな気軽にひっつかないで!」


 そうやって抵抗しながらも、本気で嫌そうではないリトラを、俺は微笑ましく眺める。言い方は違えど、毎回似たやり取りをする二人に、俺は癒される。

 と、リトラは俺の方をキッと見る。


「クロノ、あんたもだからね! あんたが怪我したら皆に迷惑かかるんだから、ちゃんと言いなさいよ! 怪我だけじゃなくて、色々頼りなさい!」


 俺の事も忘れず気にしてくれる、そんなリトラの言葉は何度も聞いたはずなのに、俺の心の中は熱くなる。

 このリトラの優しさは、最初から変わらない。俺は、最初の性格の時のリトラを思い出す。


『あの……! えっと、クロノ……、も……、怪我したりとかしたら、言って、ね……! 私、それなら役に立てる……、から……!』


 あの時間軸の時から、リトラはそう言ってくれていた。あの時は、敬語じゃなくていいと言ったばかりで、少し語尾を考えながら言っているが様子が可愛かった記憶がある。

 あの時から、俺はリトラに惹かれていたのだろうな。そんな事を、ぼんやりと思いながらも、俺はリトラを笑顔で見つめる。


「うん、わかった。ありがとね」

「別にあんたのためじゃないんだからね! 私のためなんだから!」

「そっか。うん、ありがと」


 別の時間軸の言葉を覚えているから余計、本当は俺のためを思って言ってくれているんだろうなとなんとなくわかる。だからこそ、何度聞いても嬉しくて仕方がない。


「あれ……? 私、もしかしてお邪魔……?」


 と、ソフィアが俺とリトラを交互に見ながら言った。そんなソフィアの言葉に、リトラは顔を真っ赤にする。


「なっ、違う! 違うから! ほら、もうあんたの家に行くわよ!」


 そう言って、リトラは一人歩き出す。


「あっ、待って! 場所とか知らないでしょ!?」

「へっ? あっ、ええっと……」


 顔を赤くして戸惑うリトラを見て、俺は思わず笑った。今回のリトラは、素直じゃないけれどわかりやすくて可愛らしい。そういえば、クールなリトラの時も同じことがあって、同じように思ったなと俺は思う。


 また時間が経って仲良くなって、そして俺がリトラに好きと言ったら、リトラはどんな反応をするのだろうか。今のリトラの性格なら、顔を真っ赤にして怒るだろうか。

 けれども、言えない。一つ前の性格の時、何度自分の想いを伝えようかと迷った。だってリトラも、俺に何度も好きと伝えてくれたから。


『クロノのそういうとこ、だあいすき!』


『私ね、勿論みんなのことが、大好きよ。でも、クロノへの好きは、特別なの』


 けれども、時間は簡単に巻き戻る。巻き戻れば、せっかく恋人同士になっても、ただの他人に戻る。そんなの空しいだけだ。

 だから、いつも俺は、この旅が終わってから返事をしていいかと尋ねた。


『勿論いいわよ。でも、私がクロノのこと大好きなのは、忘れないでね』


 今はもう、自分の事を好きと言ってくれたリトラはいない。けれどもまた、好きになってくれるだろうか。

 どうしても期待してしまう。性格は変わっても、根本的な所は変わらないから、どうしても期待してしまう。


「いつか、好きって言えたらいいな」


 俺はそう呟いて、自宅へと向かった。

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