55.正義と悪の定義
ソフィアの両親が国により殺されたという事実は、ある意味この国の歴史を考えれば違和感のない話なのかもしれない。そう思ってしまうのは、俺がこれから見る内容を知っているからだろう。
そんな事を思いながら、俺は神珠が浮かんでいる場所をみる。
「神珠、そろそろ取っていいかな」
「取ったら、なんか昔の映像を見せられんだっけ?」
「うん。少なくとも前回はそうだった」
「別に俺は構わねえぜ。てめえらに前の話もすでに聞いてるし」
ゼノの言葉の後、リトラとソフィアも大丈夫だと言った。だから俺は、2つ目の神珠を手に取った。
その瞬間、前回と同じように球は光り出す。そして天井を照らし、映像を映し始めた。
見えたのは、また誰かの視点で見た景色だった。場所は以前見た時と同じ、窓のない部屋。
その映像は、慌てるような足音が聞こえる所から始まった。そしてすぐに、部屋の扉が勢いよく開く。
そこに現れたのは、前回も映像に現れた、魔力の少ない第三王子であるコンコルスだった。
『どうした!? 何かあったのか!?』
エウレの声が、コンコルスにそう尋ねる。恐らく視点の主は今回もエウレなのだろう。
エウレの言葉に、コンコルスは焦った顔で口を開く。
『フォッシリムを、国が攻めようとしている』
『なんだと!? 気付かれていないのではなかったのか!?』
『私や君の動向を探られていたらしい。直前まで気付くことができなかった。申し訳ない』
『あなたが謝る事ではないだろう。でも、何故……、なんて、聞くまでも無いか』
エウレは、大きくため息をつく。そんなエウレを見て、コンコルスは困ったように口を開いた。
『そうだ。君の予想通りだ。やはり今まで見下していたものが、力を持つ事を良いと思わなかったのだろうね。私が次の王になろうとしているという噂まで立ってしまっている。しかも最近では、魔力を持たないものが魔力を持ったのは、悪魔と契約したからだという噂を流そうともしている。ご丁寧に、民にも受け入れやすい物語まで作ってね』
『ならば、フォッシリムに避難させた彼らは、悪魔の力を借りたとみなされ、殺されるだろうな。……奴らはいつ到着する』
『2日後だ。大所帯で動いているから、動きはゆっくりだね。……私達二人なら、1日でフォッシリムまで行けるだろう』
『わかった。すぐ……、いや、コンコルスは先に向かい、住民たちに避難の準備をするよう伝えてくれ。私は少し準備したいものがある』
そう言ったエウレを、コンコルスは少し心配そうに見つめた。
『わかったよ。私は私にできることをしよう。でも、どうか無理だけはしないでおくれ。君は正義のためなら、少し無茶をしすぎるところがあるからね』
『別に無茶など……。……いや、まあ心にとめておく』
『そうしてくれると助かるよ』
そんなやり取りの後、場面は変わった。
次の場面で、エウレは多くの人に囲まれていた。
『な、何故誰も避難していない! ここは戦場になるのだぞ!? わかっているのか!?』
エウレは焦ったように叫んでいた。けれども、フォッシリムの住民は、何か覚悟を決めた目でエウレを見ていた。
一人の男が口を開く。
『エウレ様! 我々でせっかく作り上げた街を、俺達を奴隷のように扱った奴らに壊させるなんてさせたくありません!』
『しかし、戦う術などないだろう!? 街ならまた作り直せばいい! 山を越え、もっと国から離れた場所に!』
『何故何もしていない我々が逃げなければいけないのです!? それに、戦う方法ならあります!』
そう言って住民たちが手にしたのは、ソフィアが持つような魔石がはめられた武器だった。
最初に口を開いた男が、再び口を開く。
『エウレ様が多くの事を学ばせてくださったおかげで、このようなものでも作れたのです!』
『なるほど、魔石をつかった武具か。だがしかし、国の兵になる者は魔力も相当なものだ。身を守ることはできても、勝つことは……』
『もう一つ、切り札があります!』
そう言って、男は一つの場所にエウレを連れて行った。連れて行かれた部屋には、筒状の禍々しく大きな装置が配置されていた。
『これ、は……』
『どれだけ強い魔力持ちにも敵わない、街一つ簡単に滅ぼす装置です。そしてこれは、王都にも届くでしょう』
『いつの間に……』
『私が、了承したんだ』
と、男の隣からコンコルスが現れた。
『我々は力で来られれば、何もできない。だからこそ、対等な力があればけん制できる。まさか、もう完成しているとは思わなかったが、間に合ったのであれば好都合かもしれないね』
そう言って、コンコルスはエウレに優しく笑いかける。
『私の動きは、全てバレている。だからこそ、この力を持って私が交渉しよう。例え悪魔と契約したと言われてもかまわないさ。元々、王位継承になど興味はなかった。この穏やかだった街を守れるなら好都合だ』
『しかし、はったりだと思われるかもしれないぞ!? それに、あなた自身が捉えられ、処刑される可能性だってある!』
『ならば、一度力を示しましょう。王都かどこかの街に落とせばいい』
男が、ニコリと笑って言った。そんな男に、エウレは焦ったように言う。
『何を言っている!? そんな事をしたら、多くの無関係の民が死ぬだろう!』
『良いではないですか! 奴らは多くの魔力無しを物のように扱い、殺してきたのです! ならば、我々だって我々の力を示すために殺したって良いでしょう! そもそも我々は自分達を守るため! 正当な殺しです!』
『人を殺すことに正当性などない! あなた達も罪のないのに苦しめられて辛かったのだろう!? 力を持った瞬間に力で服従させるのであれば、国の者達と変わらないではないか! 私はそうでない未来を……』
『私たちは彼らは違います! 私たちは正義のために! ここにいる者達を守るために力を使うのです! だから……!』
そんな男の叫びに、エウレは小さくため息をついた。
『……少し、時間をくれないか? 作戦を考える。それに、この装置もしっかり見ておきたい。……誤作動など、して欲しくないだろう?』
『……! ありがとうございます!』
男は自分たちの意見が認められたのだと思ったのか、嬉しそうにそう言った。
その笑顔はまだ若くて無邪気さが残っていたけれども、俺も出会ったあの人の面影があった。あくまで500年前の出来事であるこの場面にあの人がいるはずはないけれど、きっと先祖か何かなのだろうということは、後ほど答え合わせできるだろう。
ここで、映像はプツリと途切れた。




