50.進む物語と気付かない感情
あのやり取りのあと、俺は再びベッドに戻された。魔力が戻ればいつも通りではあるのだけれども、皆の目が真剣だったので、拒否などできなかった。
だから俺は布団の中に入り、次に行く場所のシミュレーションを頭の中でしていく。けれどもそれだけで時間を過ごすには限度があった。しかも少し疲れていたのか考え事をしている間に眠ってしまい、夜になる頃には完全に目が冴えてしまっていた。
だから俺は、なんとなく外に出た。昨日の夜、ダイヤスネイクと戦った時と同じ、月明かりが綺麗な夜だった。
そんな夜に、風を切る一つの音が響く。その音の方を見れば、ゼノが剣を振り、様々な動作を試していた。
ゼノも俺に気付いたのか、手を止めて俺の方を向く。
「起きたのか。休めたか?」
「うん。おかげさまで。ゼノは、この時間まで特訓?」
「ああ。まあ、昼間は仕事があるしな。本来俺がやんなきゃなんねえことほっぽり出して動き回ってるから、ここに来た時ぐらいはやんねえと」
そう言いながら、ゼノは特訓を再開した。ゼノの動きは目で追うのも大変で、改めてゼノが魔力を持った瞬間に敵わなくなるのだと思い知らされる。
せめて少しでも強くなれるように特訓をしようか。そう思ったけれども、する気にはなれなかった。もしまた繰り返したとして、記憶は引き継げたとしても、身体能力はリセットされる。そう思うと、やる意味を見出すことはできなかった。
けれども、同時に思う。もしこのまま全てが上手くいけば。そしてソフィアが、誰にでも魔力を当てる技術を見つけることができれば。
きっと今のゼノは、真っ先に自分に魔力をと言うだろう。そして、その瞬間俺は不要になる。
「……ほんと、ゼノが魔力も持っちゃえば、俺なんか敵わなくなるね」
なんとなく俺がそう呟けば、ゼノは嬉しそうに笑って俺を見た。
「だろ? だからてめえも、俺を頼れよ!」
「……うん。その時は、俺の代わりに皆を守ってね」
「任せろ!」
そう言って笑うゼノが眩しすぎて、俺は思わず何もない暗闇に目を逸らした。
あれから、また少し寝れば、再び日は登った。
俺が連れて行かれたのは、ダイヤスネイクと戦った場所だった。
「こっち、こっち! こっちにダイ君がいるんだよ!」
「ダイ君?」
「あの宝石の蛇さんのこと! ダイヤスネイクって呼ぶことに決めたんだ! んで、略してダイ君!」
「……こいつが勝手に呼び始めたんだけどな」
ソフィアの言葉に、隣を歩いていたゼノがそう言った。
どの時間軸でも、ソフィアがこのタイミングであの蛇の事をダイヤスネイクと名付け、定着する。今の時間軸でも、無事あの蛇はダイヤスネイクと命名されたようだ。
「まっ、でも、名前的にはピッタリだよな! クソ高級な宝石のダイヤモンドに見えなくもないもんな!」
「えっ? ダイ君を覆ってるの、本物のダイヤモンドだよ?」
「……は?」
ソフィアの言葉に、ゼノは口をあんぐり開けて思わず立ち止まる。
「えっ、ちょっ、おい、マジかよ!? 俺、ちょっと消しちまったけど!? クソ勿体ねえことしちまった気がすんだけど!?」
「そう? 寧ろ近くで見れて羨ましいよ! ダイヤモンドを燃やすなんてなかなかできないもん! あー、私も見に行けば良かった!」
「って、てめえ、あれが何でできてんのかわかってやがったのかよ!?」
「うん! だからちゃんと熱に弱いってわかったでしょ?」
「いや、まあそーかもしれねえけど、やり方とか……」
そんなやり取りがあるのも、いつもの事。
そして、そんなやり取りを聞いていると、大きな穴の中からダイヤスネイクが現れた。
ダイヤスネイクは俺を見るなり、頭を俺に近付ける。そんなダイヤスネイクを見て、俺は口を開いた。
「ダイ君、で、いいんだよね? 君が俺を助けてくれたんだって? ありがとね」
俺がそう言えば、ダイヤスネイクは暫く俺を見つめた後、自分の頭の部分を俺が経っている所に載せた。そんなダイヤスネイクの頭を、俺は撫でる。
「君も、無事洗脳が解けたみたいで良かった。あれから、変な事はない?」
俺の言葉に、ダイヤスネイクは少しだけ頭を浮かせて頷いた。
と、隣にいたリトラが口を開く。
「……この子、あんたが落ちた後、凄く心配してたのよ。あんたを安全なとこにおろした後も、ずっとソワソワしてたわ」
「そっか。ダイ君、ありがとね」
そう言って再び頭を撫でると、ダイヤスネイクはふいとそっぽを向いた。どうやらリトラの言葉は、少し恥ずかしかったらしい。
そんなダイヤスネイクの様子に少し笑いながらも、俺はダイヤスネイクが俺を覚えていたことにホッとした。
ダイヤスネイクの洗脳が解けた事は、ソフィアから聞いて知っていた。けれども、過去の時間軸と同じように、その後のフォローはできていなかったから、俺達を信頼してくれたのかはわからなかった。
けれどもこの様子を見るに、過去の時間軸と同じように俺達を神殿へ連れて行ってくれるだろう。
そう思って、俺は口を開く。
「ダイ君。俺達、女神様の神殿を探してるんだ。知ってる?」
俺がそう言うと、ダイヤスネイクはゆっくりと地面を這い、山の方に頭を向ける。そして、付いて来いと言うように、チラリと俺達の方を見て、それから行先の方に視線を向けた。




