48.正解と条件
「ゼノ!!!!」
俺はゼノ達がいる所にワープして、ゼノの名前を思いっきり呼ぶ。
「クロノ!? おまえ、なんでこんなとこに……」
「これ! できたって!」
そう言って、俺はゼノにソフィアの作った剣を渡す。
「おまっ……」
「とりあえず行って!! どこかに被害が出る前に!!」
ゼノが何かを言おうとしたことはわかった。けれどもそんな暇が無いことを俺は知っているから、力を振り絞って叫ぶ。
「……っ。わかったよ!」
ゼノはそう言って、アルカルさんが引き付けているダイヤスネイクの背中に、少し高い場所から飛び乗る。そして、持っていた剣の魔石を発動させて、ダイヤスネイクに振り下ろした。
ダイヤスネイクの背中は、赤く光り、その光は広がり始める。
その光っている場所は熱いのだろう。ゼノが思わず剣から手を離した。それでも剣はダイヤスネイクに突き刺さり続ける。
そして光った場所は、徐々に溶けるように消えていった。そこから白い鱗が露出する。
そろそろかと俺はダイヤスネイクを見て口を開く。
「シャドウ チェイン」
俺は、ダイヤスネイクの動きを止めるために、再び鎖で縛る。
「シャドウ ワープ」
そして、俺はダイヤスネイクの白い鱗の上にワープした。そして、精神に介入するために、魔力をダイヤスネイクに流し込む。
「……! …………!」
ゼノが何かを言う声が聞えた気がした。けれども、それを頭で理解する前に、俺の意識はダイヤスネイクの中に入っていった。
ダイヤスネイクの精神世界は、ネロデルフィンの時と一緒だった。ダイヤスネイクが黒い鎖に縛られ、薄紫色の靄に覆われ、もがき苦しんでいる。
ありがたいことに、精神世界では魔力が少なくなってきていることによる不調は感じなかった。だから俺は、いつもの時間軸と同じように、ダイヤスネイクに向かって叫ぶ。
「すぐに助けてあげるからね! インフィニット ダークソード!」
そう言って、俺は無数の剣を降らせて鎖を切る。そして俺は、ダイヤスネイクの背中に乗り、優しく撫でる。
「大丈夫。大丈夫だから……」
そう優しくダイヤスネイクの頭を撫でながら、俺は思う。神珠が現れる前に必ず現れる、巨大な魔物。きっと女神様が与えた試練の一つなのだろう。
イグニスベルクで、魔力無しの人間を助けながら、一方でイグニスベルクに危険が及ぶであろう魔物を配置する。そんな女神の考えが、俺にはイマイチわからなかった。
徐々に、ダイヤスネイクは落ち着きを取り戻す。そろそろかと、俺はダイヤスネイクの背中から、ワープで抜け出した。瞬間、ダイヤスネイクは薄紫色の靄から抜け出すように、体を大きくよじる。
もうきっと大丈夫。そう思って、俺はダイヤスネイクに近付き手を伸ばす。
「安心して。もう、だいじょう……、あれ……?」
と、視界が急にチカチカと光り始めた。ダイヤスネイクをまっすぐ見ようとしても、どうしてかまともに捉えることができない。ただ、そんな俺をダイヤスネイクが見下ろしている事だけは理解できた。
だから俺は、必死に口を開く。
「もう、だいじょう、ぶ。君は、ただ、操られてた、だけ」
どうしてか、精神世界だというのに呂律が回らない。チカチカとした光は、更に大きくなって何も見なくなる。
瞬間感じた、激しい頭痛と吐き気と息苦しさ。くるりと回る視界は、眩暈なのか自分の立っている場所がおかしいのかも理解できない。
一瞬、誰かの人の手が見えた気がした。その手は、誰の手だろうか。そんなことを考える余裕もないまま、俺は意識を手放した。
次に俺が目を覚ましたのは、暖かいベッドの上だった。
「あれ……? 俺……」
「クロノ!? 目え覚ましたのか!?」
聞こえてきたゼノの声に、徐々に思考がクリアになっていく。
倒れる瞬間の感覚は、しっかり覚えていた。そして、それは魔力切れの症状なのだと、過去の時間軸から理解した。
それを理解した瞬間、俺は慌ててベッドから飛び出し、部屋の外に出た。
痛いほどの外の光。きっともう、夜はだいぶ前に明けたのだろう。
あのタイミングでの魔力切れは初めてだった。ダイヤスネイクの洗脳は解けただろうが、その後どうなったかはわからなくて、俺はあたりを見渡した。
と、視界の隅で誰かが立ち上がる音が聞えた。
「クロノ……!? 良かった……! 本当に良かった……!」
目を真っ赤にしたリトラに俺は少し嬉しくなりながらも、その後ろにいたアルカルさんに駆け寄る。
「あの……! 誰か死んだ人は……!? そうじゃなくても、怪我した人はいないですか……!? イグニスベルクは……!? 皆さんの住む場所は、駄目になってないですか!?」
「落ち着け。向こうを見ろ」
アルカルさんの言葉に、俺はアルカルさんが指さす方を恐る恐る見た。
気が付けば、沢山の人が集まっていた。リトラも、ソフィアも、そしてここで見かけた俺の知る限りの人も、ここにいた。そして、見える範囲では、集落のどこも壊れていなかった。
「全てが無事だ。少し坑道が崩れたぐらいだが、すぐになんとかなる。貴様のおかげでな」
その言葉に、ようやく俺は息ができるようになった気がした。ここまで全てを救えたのは、初めてのことだった。
「良かった」
俺は思わず、口を開く。
「何か間違えたのかと思った。ちゃんと、正しい選択できてたんだ」
「んなわけねえだろ」
と、低いゼノの声が、後ろから聞こえた。そんなゼノの言葉に、俺の心臓はぎゅっと握りつぶされるような感覚になる。
「やっぱり、何かあったの!? もしかして、ゼノの大切な何かが……」
「てめえの状況わかって言ってんのか!? てめえは死にかけたんだぞ!?」
その言葉に、俺は自分の身体を見る。けれども違和感はなくて、首を傾げた。
「ゼノ……? 俺は別にだいじょう……」
「今大丈夫かどうかの問題じゃねえだろ!? 休ませるつもりでこっち連れて来たのに、てめえこっちでも無理したんだってな!? んで気を失って、あの魔物の背中から崖の下まで落ちたんだぞ!?」
その言葉に、けれどもまだ意味がわからなくて、俺は首を傾げるしかなかった。




