46.協力と信頼
「そうか、火……! きっと、火が関係してる……!」
ソフィアはそう言って、持っていた鞄をあさり始める。
「待ってね……。確かここに……」
そう言って、ソフィアは赤い魔石を取り出し、自分の持っていた弓にはめる。そして赤く燃えた矢を放った。
それが当たった場所は、確かに赤く光った。けれども、矢はすぐに燃え尽き、下に落ちる。
けれども、それで終わらない事を、俺は知っている。
「うーん。矢じゃ継続力が無いか……」
「……なあ、継続力があれば、あれを壊せる可能性はあんのか?」
と、ゼノが真面目な声でソフィアに尋ねた。ゼノがいないときはアルカルさんが役割を担うのだが、今回はゼノが担うのだろう。
ソフィアはゼノの言葉に、こくりと頷く。
「ある、と思う。当たった部分、赤くなってたし……。私の予測が正しければ、あの素材は……」
「な、なあ!」
ゼノが、真剣な目でソフィアを見る。
「てめえの……、いや、ソ、ソフィアのその……、魔石? ってやつ、俺の剣に付けれねえの? そ、その、だな。俺なら剣であいつにしがみついて……」
「それだ!」
ソフィアが目を輝かせてゼノの剣を見る。
「えっ、いいの!? いいの!? あんだけ魔力嫌ってたのに!?」
「い、今その話を持ち出すな! そ、それに、お、俺達、仲間、に、なんだろ? なら、そりゃ、強くなんなら……、その……」
「さっそくやってみるね! 大丈夫! 武器ならそんな時間かかんないはず! どっか安全な場所ないかな!?」
目をキラキラさせてゼノの腕を掴むソフィアを、ゼノは少し恥ずかしそうに目を逸らす。
「あ、案内してやるから、いったん離れろ!」
「ほんと!? ありがとー! じゃ、今すぐ行こう!」
そのやり取りを見届けて、俺は口を開く。
「それなら、それまで俺はこの子抑えとくね。アルカルさんは、念のためイグニスベルクの人たちの避難をお願いできますか?」
「勿論だ。あやつらも先ほどの音で目を覚ましているだろう。……あやつらには隠し続けようと思ったが、もう無理だな」
「……俺達が来たばかりに、申し訳ないです」
「いや、きっといつかはあったこと。それが、今だったというだけだ」
そう言って、アルカルさんは去ろうとする。
「アルカルさん、待ってください!」
「なんだ」
「リトラも、安全な所にお願いできますか?」
その言葉に、リトラはまた泣きそうな顔をする。けれども、きっと今回も魔力が切れ、ダイヤスネイクが再び暴れだしてしまう。そうすれば、リトラを巻き込んでしまうだろう。
いや、実際過去の時間軸では、ここにいたいとごねたリトラをそばに置いて、守りきれずにリトラが死んだことがあった。だからこそ、何を言われても絶対に譲れない。
「かまわない。……貴様も、あやつの負担になりたくはないだろう?」
アルカルさんも諭すようにリトラにそう言うと、リトラは俯きながらも頷いた。
「……行くぞ」
「……あんたは」
と、リトラが口を開く。
「大丈夫なの? ……その、魔力とか、無限じゃないわよね」
初めて聞かれた質問は、まるで俺のこれからを予測しているようで驚いた。けれども、これから起こることを俺は知らないはずで、だからこれが正解だろうと口を開く。
「あはは、どうだろう。限界まで使ったことないからわかんないや。それに、これしか方法は無いし、とりあえずやれることはやるよ。リトラも、怪我人が出たら、助けてあげて欲しい」
「……そうね。私は、私のやれることをやるしかないわね」
そう言って、リトラはくるりと背を向け、アルカルさんと一緒に集落の方に消えていった。
それから、だいたい30分は経ったのだろう。自分の身体の状態で、だいたいの時間経過は理解できた。
頭痛と吐き気と眩暈がおさまらない。これは、魔力不足による症状だと俺は知っている。
けれどもそれで鎖を消してしまうと、今でも暴れて鎖から抜け出そうとしているダイヤスネイクが集落の方へ行き、イグニスベルクが悲惨なことになる。
だから、可能な限り耐えなければいけない。1分でも。1秒でも。耐えれば耐えるほど、イグニスベルクは守られる。
幸い俺の魔力はすぐに回復する。だから、どれだけ魔力を放出しても、気を失わなければなんとかなることも知っている。
「……おい」
と、後ろから聞こえた声に体が跳ねた。
「……ゼノ? ど、どうしたの?」
「てめえ、顔色悪くねえか? 大丈夫か?」
そんな事、過去の時間軸でゼノに言われたことなどなかったし、そもそもゼノが様子を見に来たこともなかった。
「だ、大丈夫、だって」
「いや、絶対大丈夫じゃねえって! なんか俺にできること……」
そう言われて、俺は、丁度良いと口を開く。
「もうす、ぐ、魔力切れ、起こす、かも。ソフィアの、剣、できる、まで、魔物の、注意引いて……」
「いや、もう俺が注意引くから! だからてめえは休めって!」
「だい、じょぶ。俺の、魔力、すぐ回復、するから。今後の、作戦に、支障は……」
「そうじゃなくて……! ああ、クソっ。俺の力じゃ限度があるってか」
そう言って、ゼノは俺の傍から離れた。
俺は、ゼノとのやりとりを深く考える余裕などなかった。ただ、これでいつもよりスムーズに、ダイヤスネイクの注意を引き付けることができるかもしれない。もしかしたら、被害はゼロに……。
そう思った時だった。大きな温かい手が、俺の肩に触れる。
「貴様は、一時でも休め。安心しろ。あやつ相手に、勝てぬかもしれぬが、負けもせぬ」
その声に振り向けば、アルカルさんとゼノの姿があった。
「俺だけじゃ不安だろから、じじいも呼んできた! これなら安心だろ!? なんとかして俺らが注意を引くから! だからてめえは休め!」
二人の言葉に、安心できればどれだけ良かっただろうか。心の奥底から湧き上がってくるのは、任せる選択をしたことによる、誰かが死んでしまう不安だった。




