42.兄と弟
「ほんと、てめえは兄貴とそっくりで、ムカつくぜ」
そんな事をゼノから言われたのはどの時間軸でも初めてで、俺は驚いてゼノを見た。
「お兄さん?」
「ああ。クソみたいなお人好しで、いつか魔力の量なんて関係なく、誰とでもわかりあえると信じてやがった」
その言葉に、俺は首を傾げる。
「そうかな。そんな事言ったら、ソフィアだって……」
「ハッ、あいつは自分と違う意見の奴らには敵意剥き出しじゃねえか。全然ちげえよ」
それもそうかと俺は思う。寧ろソフィアとゼノが言い合いしている姿を見ていると、二人の方がそっくりだとも思うこともあった。
一人で納得している俺を見て、ゼノは笑う。
「つーかよ、俺を仲間に誘うって、正気か? 俺、てめえやてめえの仲間を殺そうとしたんだぜ?」
「でも、事情があったんでしょ? それに、ほんとに殺されたら許せないかもだけど、ゼノは実際に殺してないし」
「事情があったら、未遂だったら許せんのかよ。ほんと、てめえは、てめえは兄貴にそっくりで、馬鹿で……」
そう言いながらも、ゼノは再び涙を滲ませる。そんなゼノを見て、なんとなく俺はゼノのいる枝に移り、ゼノの頭を撫でようと手を伸ばした。
そんな俺の手をゼノは払いのけ、距離を取る。
「な、なにすんだよ!」
「あっ、いや、俺とお兄さんがそっくりって言ってたから、ゼノ泣きそうになってたし、なんとなく……。あっ、いや、妹の事もこうやって撫でてたから……」
「てめえと俺は同い年だろ!? 弟扱いすんじゃねえ!! そもそもそんな頭撫でられて喜ぶようなガキじゃねえから!!」
「あはは、ごめんごめん……」
流石に子供扱いするのは駄目だったかと、少し焦る。けれども、ゼノは怒ったというよりは拗ねたような顔をしていて、少しだけホッとした。
そんな俺をゼノはチラリと見た後、俺は大きくため息を付く。
「わーったよ。仲間になってやる! んで、女神の伝えてえこと知るついでに、てめえが女神に良いように使われてねえか見てやる!」
「あれ、もしかしてなんか心配してくれてる? あはは、でもありがと」
「……てめえにはプライドっつうもんがねえのかよ」
「ん……?」
「……まあ、兄貴もそんな奴だったか」
そう言って、ゼノは木から飛び降りた。
「……戻るぞ」
それだけ言って、ゼノはイグニスベルクへと歩き始めた。少しだけゼノの歩くスピードは遅くて、それが俺を待ってくれていた気もして、なんだか少し嬉しくなった。
この時間軸は、ゼノの説得が一番冷静でスムーズに終わった。そう思うと、この時間軸の進み方は想像以上に正解なのかもしれない。
そんなことを少し前の俺は思っていた。いや、正解なのは正解だろうが、新たな問題が発生していた。
「絶対に!! 嫌!!」
ゼノも仲間に入れて欲しい。俺がそう言うと、怒ったようにリトラはそう言って、そっぽを向く。
『ちょっと不安だけど、クロノがそう言うなら良いわよ』
そう言ってくれた一つ前の性格のリトラが恋しくなってしまう。いや、クールな性格と過保護な性格の時のリトラは猛反対していたから、戻ったというのが正しいかもしれないが。
リトラの隣で、ソフィアも怒ったように言った。
「クロノ、忘れたの? この人、何度も私達を襲って来たんだよ!?」
ソフィアがそう言えば、後ろにいたゼノが俺の前に出て頭を下げる。
「ほんと、マジでそれは悪かった。すまねえ。改めてこいつ……、クロノと話して、俺の目で女神が伝えようとしてくれてること知りたいと思ったんだ」
「うっ、そう言われると断れないというか……。あーっ!! わかってくれて嬉しいって感情が湧き上がってしまう!!」
ソフィアはそう言って頭を抱える。そんなソフィアはいつもの事で、少し単純なソフィアに笑いながら、まだ不服そうなリトラの方を見た。
「俺からも、お願い」
「……なんで」
「えっ?」
「なんでクロノは、そいつに仲間になって欲しいの」
今までのリトラにはそんな事を聞かれたことなどなくて、一瞬戸惑う。けれども正直に答えるしか思いつかなかった。
「えっと……。俺だけじゃ二人を守りきれないから、かな? ゼノは強いし、そういう意味でも仲間になってくれたら心強いなって!」
その言葉に、どうしてかリトラはショックを受けたような顔をした。後ろで、俺の言葉を聞いたゼノが嬉しそうに俺の肩に手を回す。
「なんだ、てめえも俺の力が必要だったってことかよ。素直にそう言やいいのに!」
「なーに言ってんだか! 言った所で、てめえらとは分かり合えねえ、とかなんとか言って、殴りかかってた癖に!」
「うっ、それは、まあ……」
ソフィアとゼノのそんなやり取りは旅が始まればいつもの事で、懐かしく思いながらも、俯くリトラが気になって俺はリトラに手を伸ばした。
「……土下座」
ポツリとリトラが言った。
「……土下座したら、許してあげるわ」




